欠けた鑿の所有印
石工ギルドの審査会で、フィン・ローヴェルの聖像だけ鼻が欠けていた。
「また失敗か、のろま」
先輩職人バルド・クレインは、欠けた鑿をフィンの足元へ投げた。見習い仲間の前で、道具を隠す、石粉を寝台へ撒く、完成品を壊す。抵抗すれば賃金袋を炉へ投げる。それが彼の「教育」だった。
バルドは審査長へ頭を下げる。
「こいつは自分の未熟さを私のせいにしています。今朝も私の鑿を盗み、像を傷つけました」
鑿の柄にはバルドの名が彫られている。審査長は厳しい顔でフィンを見る。
「盗んだのか」
「いいえ。その鑿は、バルドさんの物でもありません」
笑いが起きた。バルドは柄の名を指す。
「読めないのか?」
フィンは折れた刃を炉の青火へ入れた。熱せられた鋼の内部から、小さな鳥の所有印が浮かび上がる。フィンが師匠から譲られた高級鑿にだけ打たれた紋だ。表面の名は後から彫り直されていた。
「返せと言ったら、おまえが捨てたと言った」
「証拠はあるのか」
バルドが怒鳴った瞬間、青火が音を再生した。ギルドの鑿は盗難防止のため、所有印を削ろうとした際の最後の声を鋼へ封じる。
『名前を彫り替えて、あいつの像を壊せ。失格にすれば工房も俺のものだ』
バルド自身の声だった。
なおも彼は「冗談だ」と笑おうとしたが、審査長は聖像の破片を持ち上げる。断面には、鑿の刃欠けと一致する筋があり、壊した時刻の魔力粉が残っていた。像の台座には、バルドが蹴り倒した靴底の鋲跡も七つ揃っている。その時間、フィンは審査受付で作品証明書に署名している。一方バルドは、工房の鍵を自分の証票で開けていた。
審査会の隅で黙っていた見習いたちが、同じ徴収印のある賃金袋を次々に机へ置いた。
フィンは新しい鑿を受け取り、バルドの前に置かれた見習い契約書を見た。毎月「教育費」として賃金を取り上げる条項にも、バルドの署名がある。
審査長がギルド章を机へ打ちつけた。
「バルド・クレイン。窃盗、作品破壊および見習い虐待により、職人資格を永久剥奪する」