氷を映す盾

フィヨルドの月は、凍った湾へ白い道を作っていた。

シグレフ・ハルドは丸盾を胸から外し、氷の上へ置いた。磨かれた鉄板に、敵の松明と雪面が逆さに映る。

湾の中央で交換するのは、こちらが捕らえた敵の船長アスゲルと、敵が捕らえたシグレフの妹リーヴだった。二人はそれぞれ百歩先に立っている。武器を捨て、同時に歩く。それだけの取り決めだった。

敵は交換場所を指定した。新雪の上へ、松枝で細い道まで示してある。

シグレフは盾の反射を見た。

雪は白い。だが指定された道の中央だけ、鏡の中で黒い筋になっている。肉眼では見えないほど薄く、水気を含んだ雪だった。

敵は夜のうちに氷へ溝を切り、海水を上げてから雪で隠した。人一人なら持つ。二人がすれ違い、足を揃えた瞬間に割れる深さだ。敵の船長は溝の手前で止まり、リーヴだけが海へ落ちる手筈なのだろう。

「盾を捨てろ」と対岸の敵将が叫んだ。「武器は持ち込まぬ約束だ」

「だから置いた」

シグレフは盾を氷へ滑らせた。鉄板が月を運び、黒い筋の手前で止まる。

「道を三十歩、北へ移す」

「条件を変える気か」

「氷を検める条件は禁じていない」

敵将は答えない。北には古い橇道がある。冬じゅう荷を運び、厚さが分かっている。そこで交換すれば仕掛けは使えない。

アスゲルが笑った。

「妹一人に臆したか、シグレフ」

「おまえ一人を返すほど臆病になった」

シグレフは船長の縄を引き、北へ歩かせた。敵兵の槍がこちらへ向く。リーヴの首にも刃が当たる。

「動けば女を殺す」と敵将が言った。

「殺せば船長を返す理由がなくなる」

薄い氷の上では、怒った者から沈む。シグレフは声を荒げなかった。

長い風のあと、敵将がリーヴを北へ動かした。

交換が始まる。二人は橇道を歩き、中央ですれ違う。アスゲルはわざと肩をぶつけたが、リーヴは倒れなかった。

その時、敵側の若い兵が焦って指定道へ踏み込んだ。黒い筋が音もなく割れ、片脚が海へ落ちる。周囲の兵が引き上げる間、仕掛けは月光の下へ露わになった。

リーヴがこちら岸へ着く。シグレフは妹の肩へ毛皮を掛けた。向こうではアスゲルが敵将へ何か叫んでいる。

誰が約束を破ろうとしたか、湾の全員が見た。

シグレフは氷上の盾を拾い上げた。鉄板には割れた黒い海が映っている。

「入江門の鎖を外せ」

岸壁の滑車が回り、城柵の海門が開いた。