泡立つ油の理由

金曜の午後八時十分、居酒屋の厨房で、立石航平はフライヤーの泡が縁まで盛り上がるのを見た。鶏の唐揚げを入れた直後だったが、肉から出る泡とは違い、白く細かい泡が消えない。

「油が古いんだ。差し油で薄めよう」

店長が新しい缶を持ってきた。航平は火を止め、缶を置かせた。原因が劣化だけなら油は黒く、匂いも重くなる。今日の油は昼に交換したばかりだった。

伝票掛けには唐揚げが九皿、天ぷらが四皿、子ども用のポテトが二皿並んでいた。厨房を止めれば客席から催促が来る。だが注文の多さは、危険な油を使い続ける理由にはならない。航平は泡が始まった時刻と、使った道具を順番にたどった。

泡が出たのは、洗い場から戻った二枚目の籠を使ってからだ。航平は油切り台に置かれた予備の籠を嗅いだ。金属臭の奥に、柑橘系の洗剤の匂いが残っている。閉店前にまとめて洗うはずの籠を、忙しさに追われた新人が食器用洗剤で急いで洗い、すすぎ切らずに戻していた。

ここへ差し油を入れても洗剤は消えない。さらに食材を入れれば泡があふれ、火へ落ちる恐れがある。航平はその槽を使用中止にし、注文済みの揚げ物を隣の小型槽へ数量順に回した。焼き物担当には、揚げ出し豆腐の代わりに同じ豆腐を炙る提案を客席へ伝えてもらった。

小型槽へ回せる量には限りがあるため、航平は火の通りが早い品から順に並べ直した。大きな鶏肉は一度に詰め込まず、客席へ待ち時間を伝える。無理に量を入れれば油温が下がり、外だけ色づいたものを出すことになる。

汚染した油は冷めるまで触らず、蓋もせず、周囲から水気を遠ざけた。予備の籠はすべて熱湯ですすぎ直し、乾いたものだけに印を付けた。

洗い場には、籠を食器と同じ流しへ入れないための箱を置いた。注意の声より、間違えにくい置き場を先に作った。

九時前、泡のない唐揚げが最後の卓へ出た。店長は新しい油缶を開けずに倉庫へ戻した。

閉店札を出した直後、油屋の夜間配送が到着した。航平は冷え始めた槽を見ながら、交換用の缶を受け取った。片付けは、これからだった。