泣きやんだ王冠

王冠が泣く、と聞いても、シェラは驚かなかった。

修理店へ一人で来たアデルは、外套の下から小さな銀冠を取り出した。即位したばかりの女王である。謁見のたび王冠から冷たい雫が流れ、額を濡らす。廷臣は「王に認められていない涙だ」と囁き、明日の評議会で退位を迫るつもりらしい。雫は冷たく、演説の途中でまつ毛まで凍らせる。昨日、笑いをこらえた大臣の顔を見て、アデルは初めて王冠を投げ捨てたいと思ったという。それでも布にくるむ手つきは丁寧で、傷一つ増やしていなかった。

「宝石は替えないで」

アデルが最初に言った。歴代王の誓いが宿るため、石を外せば継承権を失う。

シェラは冠を逆さにし、内側へ薄紙を当てた。八つの角のうち、二か所だけ紙が深くへこんだ。

「先王より頭が小さい。それだけです」

王冠の宝石は着用者の体温を魔力へ変える。大きすぎる冠では二点に重みが集中し、石が冷却して結露を起こす。拒絶の涙ではなく、寸法違いだった。

シェラは金属を切らず、内輪へ白竜の薄皮を一周だけ張った。体温を均等に伝え、成長すれば自然に広がる素材だ。縫い目は王冠の影へ隠した。

アデルがかぶる。銀冠はぴたりと止まり、雫は落ちない。

「でも、これだけでは廷臣を黙らせられない」

「声を出してみてください」

女王が「評議会を開く」と告げる。八つの宝石が順番に点灯し、最後に中央の石が朝日の色を放った。歴代の誓いが、今の持ち主の声へ応えた証だった。石の光は背の高い先王の色ではない。若葉のような、アデル自身の緑色だった。彼女は額へ手を当てる。冷たさも痛みも、もうどこにもない。

アデルは鏡の中の自分を見つめ、顎を上げる。

「王冠が合わなかったのではなく、私に合わせていなかったのね」

彼女は国庫の小切手ではなく、自分の財布から金貨を置いた。

「これは私の王冠を直した代金。次は国の椅子を直しに来る」

銀冠はもう泣かなかった。

女王が去った直後、店のベルが鳴り、別の冠の影が扉の下へ差した。