泥棒が許した結婚
空き巣の笹目田銀次は、忍び込んだ家で玄関の鍵が開く音を聞いた。
逃げ場を探すうち、居間の写真からその家の父親が自分と同じくらいの年だと気づく。銀次は背広を着込み、座敷へ座った。
入ってきたのは、緊張した青年だった。
「本日は、娘さんとの結婚をお許しいただきたく」
銀次は思った。父親のふりをすれば、自然に玄関から出られる。
「簡単には許さん」
「覚悟はできています」
「では、現金はどれくらい持っている」
「え?」
「いや、貯金だ」
「四百万円ほどです」
銀次は感心した。
「若いのに立派だ」
「娘さんをお金で判断するんですか」
「金庫の場所を聞く流れを作りたかっただけで」
「金庫?」
「家計管理の話だ」
青年は姿勢を正した。
「必ず幸せにします」
銀次も父親らしい言葉を探す。
「娘を泣かせたら、ただではおかん」
「はい」
「指輪はいくらだ」
「もう買いました」
「どこに」
「ここです」
青年は小箱を見せた。銀次の職業意識が揺れる。
「少し見せてもらおう」
「鑑定できるんですか」
「宝石には詳しい」
「お父様、元宝石商でしたか」
「ある意味、流通には関わった」
会話は妙に盛り上がった。
青年が尋ねる。
「娘さんの好きな料理は」
「まだ会ったことがない」
「え?」
銀次は慌てた。
「父親になる前の娘には、という意味だ」
「哲学的ですね」
「家庭とは毎日が初対面だ」
「覚えておきます」
その時、玄関から本物の父親と娘が入ってきた。
父親は銀次を見る。
「誰だ、お前」
青年は立ち上がる。
「お父様が二人?」
娘は銀次の背広を指した。
「それ、お父さんの服!」
銀次は窓へ走ったが、外には警察官がいた。本物の父が、壊された裏口を見て通報していたのだ。
連行される銀次へ、青年が声をかける。
「結婚の許可は?」
銀次は振り返った。
「俺は賛成だ。貯金もある」
本物の父はため息をついた。
娘が本物の父へ言った。
「反対するなら、偽物のお父さんの方が話が早かった」
父は銀次の背中を見送る。
「泥棒に先を越されてたまるか。まず君の仕事を聞こう」
青年は二度目の挨拶を始めた。
泥棒が盗んだのは、父親の最初の台詞だけだった。