洗剤の月

白いシーツの中央に、赤黒い染みがあった。

 早苗はそれをランドリーバッグの底へ隠すように押し込み、午前一時すぎ、誰もいないことを願いながらコインランドリーへ入った。腹の奥には鈍い重さがあり、歩くたび自分の体だけが季節から遅れているようだった。

 蛍光灯は容赦なく明るかった。

 床も、洗剤の自販機も、丸い洗濯機の窓も、隠すべきものなどないように白く照らしている。空調は低く回り、外では雨が排水溝を鳴らしていた。

 早苗はシーツを機械へ入れた。

 壁の説明を読む。標準、毛布、少量。どれを選んでも、染みのことを知っているのは自分だけなのに、指が落ち着かなかった。

 洗剤販売機の横に、古い手書きの紙が貼ってある。

「血液汚れはお湯に入れる前に水ですすぐ」

 太い青ペンの字。最後に小さく、「だいじょうぶ、よくある」と添えられていた。

 店の人が書いたのか、以前の客が頼んだのか分からない。紙の端は何度も濡れて波打っている。

 早苗はシーツを取り出し、流しで冷たい水を当てた。水音が大きく響く。染みはすぐには消えず、薄い赤が流しの銀色を伝った。

 入口のベルが鳴った。

 レインコート姿の女性が、濡れたタオルを抱えて入ってきた。早苗の手元を一度見たが、表情を変えず、隣の流しで洗濯ネットをすすいだ。

 水が二つの蛇口から落ちる。

 片方が止まり、もう片方が続く。

 女性は機械へタオルを入れ、椅子へ座って目を閉じた。話しかけることも、慰めることもなかった。ただ、ここで洗うものの種類を誰も気にしないように、同じ回転音の中へいた。

 早苗もシーツを洗濯機へ戻した。

 泡が丸い窓いっぱいに広がり、月のような白い円を作った。染みの場所は見えなくなる。回るたび、シーツの端だけが現れた。

 洗い終えた布には、ごく薄い影が残っていた。

 早苗は指で影をなぞり、それから追加でもう一度回さなかった。乾かして、家でまた洗えばいい。消えるまで眠れないわけではない。

 シーツを抱えると、洗剤の匂いの向こうに自分の体温があった。

 今夜は体を責めるより、冷えないうちに帰ることにした。