海底都市の水圧砲
海底都市の潜航士試験で、シュラガは泳げない技師ポラネと組まされた。
透明殻の外は深海。ひび一つで海水が街区を押し潰す。ポラネは殻の補修設計では首席だが、水中恐怖症のせいで皆から「机上の魚」と呼ばれていた。
「守る相手としては最悪だな」
試験官が嘲る。課題は水圧砲を受けながら、技師に亀裂を塞がせること。シュラガはポラネを補修箇所の前へ座らせ、自分は外側を向いて直立した。
三年前の外殻事故で、ポラネは浸水区画に取り残された。それ以来、水へ入ると指が動かなくなる。それでも彼女は事故の記録から新しい補修材を作り、都市を救う設計を完成させた。功績は上司の名で発表されたが、シュラガは図面の隅に残る彼女の筆跡を知っていた。
ほかの潜航士は相棒を退避殻へ縛りつけ、補修作業そのものを諦めさせた。シュラガは逆にポラネの工具を手の届く順へ並べる。『手が止まったらどうするの』と彼女が訊くと、『小槌を一回鳴らせ。返事をする』。逃げる約束ではなく、作業を続ける約束だった。
第一射。圧縮海水が砲口から爆ぜ、衝撃と白煙のような蒸気が区画を覆う。観測窓に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、試験官は慌てて非常弁へ手を伸ばした。
だが、弁を開く前に気づく。
水流音の奥で、ポラネの小槌が一定の間隔で鳴っている。恐怖で一度でも手が止まれば、あの規則正しい音は続かない。
蒸気が晴れる。シュラガは両腕を下げた同じ姿勢で立ち、ポラネは背中に隠れたまま亀裂へ樹脂を塗っていた。床は剥がれているのに、二人の周囲の水滴だけが静かに丸く残っている。
「圧力を逃がしただけだ」
試験官は自分へ言い聞かせ、深淵設定を解禁した。都市外殻の耐久限界を測る《海溝圧》が一人へ集中する。監督官が中止を叫んだが、二射目は放たれた。
区画が蒸気と泡に沈む。
音が消えたあと、シュラガは同じ姿勢。背後ではポラネが最後の留め具を打ち込み、「補修完了」と静かに告げた。
試験官が圧力計を覗く。針は深海域を越え、目盛りのない場所で震え、ついに表示板へ一語だけ浮かべた。
《防御値:測定不能》