消しゴムの白い余白
転校する友達へ、少女は手紙を書いた。
「向こうでも元気でね」
「新しい友達を作ってね」
「ずっと忘れないよ」
書けば書くほど、嘘みたいに見えた。
本当は行ってほしくない。
新しい友達なんて作らないでほしい。
自分より仲のいい子ができたら嫌だった。
祖父からもらった青い消しゴムで一行を消すと、消しゴムが勝手に次の言葉をこすり始めた。
「元気でね」が消えた。
「作ってね」も消えた。
「忘れないよ」も消えた。
消しゴムは、少女が本当には思っていない言葉だけを消した。
紙には、ところどころ穴が開きそうな白い跡が残った。
少女は腹を立て、別の紙へ書き直した。
「絶対に毎日電話する」
消えた。
「毎月会いに行く」
消えた。
「泣いてない」
一番強く消えた。
最後には、何を書いても消しゴムが動く気がして、少女は鉛筆を置いた。
机の引き出しには、友達と交換した小さな物がたくさんある。
半分に割ったシール、色違いの髪留め、喧嘩した日に返され、その翌日にまた渡された鍵飾り。
友情は、きれいな言葉より、返したり取り戻したりした物の方に残っていた。
少女は新しい紙へ一行だけ書いた。
「行ってほしくない」
消しゴムは動かなかった。
続けて書いた。
「でも、行くって決めたのを応援したい」
消しゴムは少し震えたが、消さなかった。
「忘れる日もあると思う」
消えない。
「思い出したら連絡する」
消えない。
「そっちも、思い出したときだけでいい」
消えない。
別れの日、友達は手紙を読んで泣きながら笑った。
「毎日電話してって書いてない」
「毎日は面倒」
「私も」
二人は駅のホームで、最後まで普通の喧嘩をした。
青い消しゴムは、友達へ半分に切って渡した。
その後、手紙は月に一度届いたり、半年来なかったりした。
久しぶりの便箋には、互いに知らない人の名前が増えた。
少女は少し寂しく、少し安心した。
高校生になった頃、半分の消しゴムは小さくなりすぎて使えなくなった。
再会した二人は、それを透明な袋へ入れて交換した。
「何で取ってたの」
「捨てたら、嘘になる気がして」
「それ、消えるかな」
二人で笑った。
消しゴムはもう動かない。
けれど少女は、きれいすぎる言葉を書く前に、一度だけ白い余白を作る癖がついた。
そこへ本当に言いたいことが現れるまで、急いで埋めないために。