溶けた柱から
湖上の氷ホテルが暖波で閉鎖され、桟橋も切り離された夜、無人のロビーに小包が現れた。警報が作動してから一時間、出入口は内側から封鎖され、窓の外は薄い氷水で人が渡れない。箱には、宿泊客から盗まれた青い宝石が入っていた。
残っていたのは氷彫刻家の椎名、支配人の皆川、気象記者の稲村。椎名は倉庫、皆川は非常電源室、稲村は二階から解氷の様子を撮影していた。三人とも宝石の持ち主と揉めており、返却を「外から届いた匿名便」に見せる理由がある。ロビーの監視カメラは停止していたが、床の薄い霜は入口から箱まで一度も踏まれていなかった。
記者仲間の葛西が見つけた手掛かりは三つだった。箱は側面が乾いているのに、底だけ水を吸って柔らかい。床の水溜まりは塩分を含まず、ホテルを囲む湖水ではない。そして椎名の彫刻用ヒーターには、午後九時から十五分だけ遠隔作動した記録があった。
皆川は天井から落とした可能性を唱えたが、箱に打痕はない。稲村は湖水を凍らせた柱が自然に崩れたのだと言った。しかしロビー中央で欠けた装飾柱は、透明度を上げるため純水から作られている。葛西がライトを当てると、その内部に箱と同じ大きさの四角い空洞が見えた。椎名は空洞を照明用の穴だと説明したものの、電線も電球もない。皆川はその説明を聞き、初めて装飾柱の制作工程を問いただした。
椎名は開業前、柱を二層に分けて凍らせていた。宝石入りの箱を薄い防水袋に入れ、中心へ封じ込めることは容易だった。暖波の日を選び、遠隔ヒーターで根元だけを溶かせば、箱は床へ静かに降りる。
「底の濡れは溶けた柱に接していたため、淡水は純水の彫刻から出たためです。作動記録は自然融解ではなく、狙った十五分だったことを示す。椎名さん、あなたは今夜、荷物を運んでいない。建設時に氷へ埋め、時間になって周囲を消したのです。届くはずのない箱は、外から来たのではなく、ロビーの柱が箱であることをやめた瞬間に現れました。橋が切れた夜を選んだのは、外部の配達人を想像させるため。けれど純水と遠隔加熱は、建物を作った者にしか用意できない配達でした」