火刑台の白い息

火刑執行人フィオラの血は、炎を嘘へ変える。

手首を切り、血を薪へ一滴垂らせば、火は肉を焼いたふりだけをする。見物人には悲鳴も焦げる匂いも届くが、囚人は無傷で灰の下から逃げられる。ただし使うたび、フィオラの血の一割が本物の灰になる。十度目には心臓まで崩れる。

これまで九人を逃がした。右腕を切れば灰が指へ、左腕なら肺へ近づく。今では脈を打つたび、胸の中でざらりと灰が擦れる。

十人目は魔女センダ。処刑台の柱へ縛られながら、彼女はフィオラの青ざめた唇を見た。

「私には使うな」

「黙って」

「灰が脈に詰まっている。次で死ぬよ」

司祭が松明を掲げ、罪状を読み上げる。センダは死者を蘇らせたのではない。戦場から戻らない兵の声を、一夜だけ家族へ届けた。教会が葬儀料を取れなくなったから異端とされた。

刑場の外で、埋葬坑の死者たちが騒いでいた。司祭が口封じに燃やした村人だ。センダが死ねば、彼らを鎮める者はいない。日暮れには屍の群れが町へ入る。

フィオラは手首へ刃を当てた。

「やめな。あんたが生きて、次の誰かを救いな」

「九人逃がして、十人目だけ焼いたら、私は処刑人に戻ってしまう」

彼女はまだ赤い血が残っている場所を探し、胸元へ刃を入れた。血が薪へ落ちた。

火は白く燃え上がり、センダの絶叫を作り出した。群衆が顔を背ける間、縄がほどけ、魔女は灰の穴へ沈む。地下道から埋葬坑へ向かう手筈だった。

フィオラの腕が黒く濁った。灰が血管を走り、肩、喉、頬へ広がる。痛みはなく、ただ身体の中で砂時計が倒れるような音がした。

司祭が満足げに背を向ける。フィオラは残った力で松明を掴み、彼の法衣へ押しつけた。今度の炎は嘘ではない。隠し持っていた処刑名簿が燃え、九人の「死者」がどこへ逃げたか書かれた頁も灰になった。

地下から歌が響く。センダが死者を眠らせている。

夜明け、火刑台には人の形をした灰が立っていた。風が吹くと指先から崩れ、その胸には血の代わりに白い息が一度だけ灯った。

広場を掃く少年は、その灰が微笑んだように見えたという。