火球一つで冬になった

「魔力ゼロの手では、火花さえ温められない」

炎術科の教官バルドは、相良冬真に蝋燭を一本渡した。実技課題は火球を作り、蝋燭へ火を移すこと。冬真の測定石は黒いままで、周囲の受験生は真夏のような炎を競っていた。

冬真は蝋燭を掌で守りながら、火そのものより教官の位置を見ていた。危険時の退避陣に最も近い席だけを、自分で選んでいることに気づいていたからだ。

首席候補の少女が、見栄を張って上級火球を生成した。直径三メートル。制御環が耐えられず、白熱した球が観覧席へ転がり始める。

防御教師の氷壁は触れた端から蒸発した。逃げ道には幼年部の見学者がいる。火球の表面には次の爆発までの秒数が亀裂として走り、三、二、と数を減らしていた。教官バルドは生徒を押しのけ、自分だけ退避陣へ飛び込んだ。透明な壁越しに「制御した者の責任だ」と叫ぶ。

冬真は火球の前へ出た。

この世界へ転生したとき、彼は熱量を数として見る能力を得ていた。ただし触れられるのは一度だけ。

《能力・熱収束――範囲内の熱を、一点へ一度だけ圧縮する》

冬真は蝋燭の芯を火球へ向けた。

白い光が細く縮んだ。

巨大な火球だけではない。実技場の熱、石壁に残る夏の日差し、燃えかけた旗、空気の温度まで一本の芯へ吸い込まれる。次の瞬間、火球は跡形もなく消え、蝋燭の先に青白い豆粒ほどの炎だけが残った。

息が白くなった。

床に霜が走り、噴水が凍り、真夏の学院へ粉雪が降る。出力測定器は炎の密度を読み取ろうとして赤く膨らみ、鐘のような音を立てて割れた。

冬真は蝋燭を試験台へ置いた。炎は小さいまま、誰にも消せない太陽の核のように燃えている。

退避陣から出てきたバルドは何も言えなかった。代わりに、炎の聖堂から来ていた大司祭ナディアが立ち上がり、厚い外套を冬真の肩へ掛けた。

「火球を大きくする者は多い」

彼女は青い炎の前で跪く。

「世界から余計な熱だけを除き、一点に残せる者を、我々は炎王と呼びます」

笑っていた生徒たちは、寒さではなく畏れで震えていた。