灯台守と油まみれの海羽獺

嵐の翌朝、岬の浜に黒い塊が打ち上げられた。

漁師たちは、それが海羽獺だと分かると船へ逃げ込んだ。背に小さな翼を持ち、海流を導く聖獣。機嫌を損ねれば港から魚が消えると恐れられている。

若い灯台守セイルは、獺のそばにしゃがんだ。

本来は真珠色のはずの毛が黒く固まり、翼まで体に貼りついている。沖で沈んだ商船の油樽が割れたのだろう。海羽獺は牙を鳴らしたが、立ち上がる力もなかった。

「祟りだ、触るな!」

「海へ戻せば自分で洗う!」

漁師たちが遠巻きに叫ぶ。

セイルは首を振った。獺は寒さを防ぐ毛の間まで油に濡れている。このまま海へ入れれば体温を失う。

灯台の洗い場へ運ぼうと毛布を近づけると、海羽獺が短く吠えた。翼の先から水刃が飛び、砂を深く切る。

セイルはそれ以上進まず、目の前で自分の手袋を外した。

「怖いよな。俺も嵐の夜は怖い。だから、勝手には触らない」

ぬるま湯を張った桶を置き、魚油ではなく穀物から作った洗い粉を溶く。自分の袖に油をつけ、同じ湯で落として見せた。

海羽獺は丸い目でそれを見つめ、やがて自分から毛布の上へ前脚を載せた。

セイルは体を包んで灯台へ運んだ。見た目よりずっと軽い。何日も食べていないらしく、肋骨が指に当たる。

湯を何度も替え、毛並みに沿って油を押し出す。強く擦らず、翼の薄皮を傷つけないよう指の腹で洗う。黒い水が薄くなるたび、銀白の毛が戻ってきた。

乾かす間、塩を抜いた小魚を一匹ずつ食べさせた。十匹目で海羽獺はようやく鼻を鳴らし、セイルの袖を前脚でつかむ。

港の役人が灯台へ踏み込んできた。

「聖獣は領主の所有だ。檻を用意した」

海羽獺は翼を広げた。潮の匂いが部屋を満たし、役人の帽子だけが水滴に押されて戸外へ飛ぶ。

そして獺はセイルの寝台へ上がり、仰向けに転がって腹を見せた。胸に波の印が浮かび、同じ光が彼の腕を巡る。

セイルが乾いた腹毛へ顔を寄せると、海羽獺は両前脚で彼の首を抱いた。

洗い上がった毛は雲のように膨らみ、潮風に冷えた頬を包む熱を持っている。細かった体も、安心して預けられると胸いっぱいに重く、それがたまらなく嬉しかった。