炎を一室に閉じ込める壁
貧民街を焼いた火は、家一軒から始まり、百七十戸を夜明けまでに灰にした。再建を請け負った建築組合は、安い木造長屋を前と同じ形で並べようとしていた。
「また一軒燃えたら、また全部燃えます」
異邦の設計士エルシアが言うと、組合長は肩をすくめた。
「火事を怖がって石屋敷にすれば、住めるのは金持ちだけだ」
エルシアが提案したのは、各戸の間に屋根裏まで届く薄い煉瓦壁を一枚ずつ入れることだけだった。防火区画。費用は一戸あたり銀貨二枚増える。
組合長は無駄だと言ったので、彼女は広場に同じ大きさの模型長屋を二つ作った。片方は従来通り、もう片方は中央に煉瓦壁を通した。両方の左端へ同じ量の藁を置き、同時に火をつける。
三分後、従来の模型は屋根裏を炎が走った。七分で四室すべてが燃え落ちる。
防火壁の模型も左二室は燃えた。だが炎は煉瓦の線で止まり、右二室の寝台に置いた白布は十五分後も白いままだった。屋根裏を塞いでいるため、火が越えられない。
見物していた住民たちのざわめきが、注文の声へ変わった。
「銀貨二枚なら払う」
「うちにも壁を」
「子どもの部屋を守ってくれ」
組合長は煉瓦壁のせいで部屋が狭くなると反対した。実際に失う幅は手のひら一枚。それに対し、炎が越えなかった右二室では、模型の木椅子も小麦袋も無傷だった。火を消したあと、エルシアは白布を住民代表の老婆へ渡した。煤の匂いさえ付いていない。
市の会計官が計算すると、防火壁三百戸分の追加費用は、前回の火災で失った一街区の二十分の一だった。しかも一戸ずつ区切れば、火災時に隣家の家財を運び出す時間が十五分生まれる。自分たちを「どうせまた燃える街」と呼んだ組合役員たちの前で、住民三百人が追加銀貨を机へ置いた。
焼け跡に立っていた子どもたちは、燃え残った白布を旗のように掲げた。
市長は従来図面に押された組合印を朱線で消し、エルシアの図面へ公印を下ろした。
「再建する三百戸、すべて防火区画付きとする。設計と監督はあなたに一任する」