焦げ目からの質問
叶野志津は、戸籍のコピーを机へ伏せ、焼き味噌おにぎりを作った。
祖母の遺品を整理していて、自分が五歳のとき養子になったと知った。母は一度も話さなかった。記憶にある家族写真は、どれもそのあとから始まっている。戸籍を見つけた直後、志津は家中のアルバムをめくった。母に抱かれて泣く最初の一枚には日付がなく、それまで気にもしなかった空白が、急に大きな穴になった。
驚きより先に、恥ずかしさが来た。自分だけが知らず、親戚も祖母も、同じ秘密を囲んでいた。母へ〈どうして騙したの〉と打ったが、送れなかった。問いつめれば、二十五年間の食卓まで嘘にしてしまいそうだった。誕生日を派手に祝わなかったことも、幼いころの話を母が曖昧に笑ったことも、何もかも秘密の証拠へ変え始めていた。真実を知りたいのに、知る前から家族を裁いている自分が怖かった。
祖母のレシピ帳を開く。味噌とみりんの分量の下に、日付の違う追記がいくつもある。
〈志津、来て三日目。焦げた面から食べる〉
養子になった日より、少し前の日付だった。
志津は丸く握ったごはんへ味噌を塗り、魚焼き器へ入れた。焦げた味噌の香りが広がる。熱いおにぎりを布巾で持ち、黒くなった面へ先に歯を立てた。表面はぱりりと割れ、中の白い米はやわらかかった。
子どものころと同じ食べ方だった。祖母は、志津が家族になる前から、その癖を見ていた。
半分まで食べ、戸籍を表へ返す。母の名前は、法律上の一行として記されている。けれどレシピ帳には、熱いものを冷ます時間、志津が嫌った葱の量、運動会の朝に握った個数まで残っていた。
最後の一口は、焦げ目のない白いところだった。
志津はそれを皿へ置き、さきほどの文面を消す。新しく一行だけ打った。
〈私が来て三日目のこと、覚えてる?〉
送ると、白い一口をもう一度持ち上げた。冷めかけた米は指へ少しくっついた。
母から返信が来る前に、それも食べた。
問いは残したが、おにぎりは残さなかった。家族だった時間まで疑うのは、母の答えを聞いてからでよかった。