片耳ぶんの帰り道
帰りの電車で、私はいつも好きな人とイヤホンを片方ずつ使った。
親友は向かいの席で、私たちを見ながら笑っていた。
三人とも同じクラス。同じ駅。同じ帰り道。
ある日、親友が学校の階段で言った。
「私も好き」
誰を、とは聞かなかった。
イヤホンを分け合う姿を見ていれば、分かる。
「ごめん」
親友が言った。
「謝らないで」
私は答えた。
その日の帰り、電車が遅れてホームに人があふれていた。好きな人が、いつものように片方のイヤホンを差し出す。
私は受け取らなかった。
「今日は充電ないから、二人で聞けば」
意味の通らない言い訳だった。イヤホンは相手のものなのに。
親友が驚いて私を見る。
私は先に車内へ入り、向かいの席へ座った。
二人が隣に座る。好きな人は少し戸惑ったあと、親友へイヤホンを差し出した。
親友は受け取らず、私を見た。
「いいよ」
声にすると、胸の奥で何かが切れた。
二人が片耳ずつつける。
音楽は聞こえないのに、リズムだけが肩の揺れで分かった。好きな人が何か話し、親友が笑った。
窓に映る三人の姿は、向かい合っているのに、私だけ遠かった。
電車がトンネルへ入る。暗い窓に、自分の涙がはっきり映った。
私は目をこすった。
好きな人が気づき、イヤホンを外した。
「眠い?」
「うん」
親友は何も言わなかった。
降りる駅で、私はいつもより先に立った。ホームへ出ると、親友も追ってきた。
「どうして譲ったの」
「譲ってない」
「じゃあ、何」
答えられなかった。
親友はイヤホンの片方を私の耳へ入れた。もう片方は自分の耳にある。
「勝手に終わらせないで」
同じ曲が、両側から聞こえた。
「私が選ばれるか分からない。あなたが選ばれるかもしれない。勝手に私を悪者にして、自分だけ降りないで」
涙がまた出た。
「悪者だと思ってない」
「なら、ちゃんと好きでいて」
電車が発車し、好きな人だけが車内から手を振った。私たちはホームに残っていた。
その後、親友は告白し、振られた。好きな人が選んだのは、私でもなかった。
三人の帰り道はしばらく気まずくなった。
それでも、あの日のイヤホンだけは、誰かに譲るためではなく、同じ曲を聞くために二人で分けた。
失恋の痛みより先に、親友の言葉が耳に残った。
勝手に終わらせないで。
私はそれを、片思いだけでなく友情にも向けられた言葉として覚えている。