片袖を残す折り畳み機
無人洗濯店の折り畳み機は、シャツもタオルも同じ幅へ整えた。
しわを伸ばし、左右を重ね、長方形にする。
持ち主の事情は、布の厚みとしてしか読まない。
妻を亡くした男性が、衣類を大量に持ち込んだ。
寄付へ出すためだった。
妻のカーディガン、寝間着、花柄のブラウス。
家に残しておくと、いつまでも帰ってくる人の服に見えた。
折り畳み機は次々に衣類を整えた。
だが灰色のカーディガンだけ、右の袖を外へ伸ばしたまま止まった。
男性はもう一度投入した。
やはり右袖だけが折れない。
裏返し、向きを変え、しわを伸ばしても同じだった。
腹を立てて袖をつかむと、手首のあたりに小さな繕い跡があった。
妻が男性の服を直すとき、よく使った青い糸。
なぜ自分のカーディガンにも同じ糸があるのか思い出した。
入院前の冬、妻は寒がる男性へカーディガンを着せた。
袖が短いと笑われ、右だけ継ぎ足した。
二人で一つの服を着るように、妻は背中から腕を回した。
それが最後の抱擁だった。
男性は伸びた右袖へ腕を通した。
カーディガンは小さく、肩まで入らない。
それでも青い糸の部分が手首へ触れた。
折り畳み機は静かに待っていた。
男性はカーディガンを寄付の袋から外した。
残りの服は持って帰らず、誰かに使ってもらうことにした。
灰色の一枚だけ、自宅の椅子へ掛けた。
その後、折り畳み機は時々、一枚だけ袖を残すようになった。
子どもが初めて着た制服。
遠くへ行った人の作業着。
捨てるつもりで洗った服の中から、持ち主がまだ触れておきたい一枚を選ぶ。
店の利用客は、それを故障だと思い、自分で袖を折る。
あるいは、その場で一度だけ腕を通す。
理由を話す人もいれば、黙って持ち帰る人もいる。
男性は月に一度、店の掃除を手伝うようになった。
灰色のカーディガンも持ってくる。
洗うたび、折り畳み機は右袖を残した。
三年目の春、機械は初めて両袖をきれいに畳んだ。
男性は長方形になった服をしばらく見つめ、寄付箱へ入れた。
手放せる日を決めたのは、男性でも機械でもない。
何度も袖へ触れた時間そのものだった。