犯人役は来週泊まります

 山奥の旅館《霧笛庵》では、宿泊客が三人しかいなかった。

 密告者を消しに来たマフィアの柊木バジリオ。

 彼を追う刑事の五百蔵瑛士。

 金庫を狙って雨戸から入った泥棒の茅花りん。

 女将の波切さよは、三人を見るなり名札を渡した。

 バジリオには《犯人》、瑛士には《刑事》、りんには《怪盗》。

 三人とも、自分の正体が漏れていると思った。

「ずいぶん趣味の悪い歓迎だな」とバジリオ。

「こちらは職務です」と瑛士。

「私は怪盗じゃなく普通の泥棒です」とりん。

「そこはこだわるの?」と女将。

 さよは大広間へ案内した。

「今夜は館内を自由に調べてください。ただし、午前零時までは正体を明かさないこと」

 バジリオは、密告者を探す指示だと思った。

 瑛士は、潜入捜査への協力だと思った。

 りんは、盗み放題の宣言だと思った。

「金庫の場所は?」とりん。

「帳場の奥です。でも簡単には開きませんよ」

「挑戦していいんですね」

「もちろん」

 瑛士が驚く。

「犯罪を勧めないでください」

「刑事役は怪盗を追うものです」

「役ではありません」

 バジリオが低く笑う。

「役を装うのも今夜までだ。零時には、裏切った者が分かる」

 さよは拍手した。

「台詞が決まっていますね!」

「台詞ではない」

 三人は館内を回った。りんが金庫へ工具を当て、瑛士が止め、バジリオが二人を密告者の一味と疑う。

「お前たち、いつから組んでいる」

「県警に入って十五年です」と瑛士。

「私は単独主義」とりん。

「では今夜、組め」とバジリオ。

「犯罪組織への勧誘を確認しました」

「勧誘ではなく脅迫だ」

「自分で罪名を増やさないでください」

 零時直前、三人は大広間で向き合った。バジリオが内ポケットへ手を入れ、瑛士も身構え、りんは盗んだ合鍵を握る。

 女将が柱時計を見て首をかしげた。

「あら。推理宿泊イベントは来週でした」

「では、この名札は?」

「準備中のを間違えて渡しました」

 三人は胸の名札を見た。

 さよは笑顔で尋ねる。

「皆さん、本当のお仕事は?」

 瑛士が手錠を二組出した。

「ちょうど今から説明します」