狼薬師の休日

デルフィの薬園では、狼たちが薬草を摘む。

銀毛の狼は熱冷ましの葉、黒毛は止血草、茶毛は腹薬の根だけを嗅ぎ分ける。咥えて戻った草は石臼へ落とされ、月明かりで動く杵が必要な分だけ砕く。薬液は土瓶へ入り、山麓の獣医舎へ転送される。狼たちには一瓶ごとに干し肉が出る仕掛けなので、誰も働きすぎない。

主人のデルフィも同じだった。

軍獣医隊にいた頃の外套は、肩が馬具に擦れて白く、裾には乾いた血が落ちないまま残っている。負傷馬が運ばれれば夜中でも呼ばれ、休暇中の通信角には『騎獣発熱』『今すぐ厩舎へ』が未読で十五件詰まっていた。

満月の翌朝、石臼の横に文字が浮かぶ。

《獣医舎定期便、納品完了。調合契約料を受領しました》

デルフィは狼たちへ干し肉を追加した。自分の暮らしも、彼らの餌代も、それで足りる。足りないのは金ではなく、眠る時間だったのだと今なら分かる。

そこへ通信角が唸った。元隊長である。

『明日は騎兵隊の一斉検査だ。新人では百頭を診きれん。お前の席を空けてある』

「空けたままにしてください」

『軍馬に何かあれば戦力が落ちる』

「一人に百頭を押しつける体制のほうが、先に倒れます」

『狼と遊んで腕を腐らせる気か』

デルフィは隣に座った銀毛の首を撫でた。

「これは遊びです。だから大切なんです。戻りません」

角を土の箱へしまうと、狼たちは干し肉を食べ終え、木陰へ散った。デルフィも外套ではなく毛布を持ち出し、いちばん大きな黒狼の腹へ背を預けた。

狼たちは、干し肉を食べ終えると仕事を続けない。どれほど注文札が溜まっていても、満腹になれば草の上で丸くなる。デルフィは最初、軍隊式に呼び戻そうとして、黒狼に呆れた顔をされた。翌朝には必要な薬草が揃い、納期も守られた。眠ったぶんだけ鼻が利き、足取りも軽い。疲労を忠誠心で覆い隠していたのは人間だけだ。彼女は薬園の入口に《働かない時間を含めて群れである》と刻んだ。

石臼が遠くで回るあいだ、彼女は温かな毛並みに頬をつけ、午後まで目を閉じた。