王都菓子舗の割れた王冠
王都菓子舗《蜜鈴》の試食会で、王弟妃サヴェリナは砂糖細工の王冠を握り潰した。
「硬すぎて歯が欠けたわ。菓子職人ポルカを連行しなさい」
口元には傷一つない。それでも護衛たちはポルカを囲んだ。
「慰謝料として店を王弟家へ献上すれば、命だけは助けてあげる」
ポルカは焼き台から一枚の金紙を持ってきた。
「王室試食申告書です。召し上がった品と症状をご記入ください」
妃は〈王冠飴を一口噛み、右奥歯が折れ出血した〉と書き、王弟家の印璽を押した。
「早く跪きなさい」
「その前に、お口を拝見しても?」
「無礼者!」
ポルカは首を振る。
「必要ありませんでした」
金紙を火へかざすと、文字の下から菓子の製造記録が浮かんだ。王室用の砂糖細工には、温度と破断時刻を記す蜜蝋紋が入っている。
『破断――試食前、十一時二分。圧力――右手』
会場の時計は十一時十分だった。
さらに妃が握り潰した欠片から、銀色の粉が落ちた。厨房にはない装飾粉で、彼女の手袋の内側と同じものだ。
「職人が私の手袋へ塗ったのよ!」
「妃殿下ご自身の公開映像がございます」
サヴェリナは権威を示すため、来場からずっと宮廷水晶へ姿を映させていた。映像には馬車の中で王冠を袋から出し、あらかじめ割る姿が残っている。
『歯が折れたと言えば店を奪える。王室御用達の看板も私のものよ』
妃の声が広場へ響いた。
試食を待っていた子どもたちは、怖がる代わりにポルカの背後へ並んだ。護衛たちも一歩ずつ妃から離れ、潰された王冠を守るように道を開ける。広場の誰も、もう妃の命令では動かなかった。
「映像を止めなさい! 王弟妃への侮辱は死罪よ!」
水晶に王妃の姿が現れた。
『王家の名を恐喝に使った者に、王家の席はない』
ポルカは潰された王冠を新しい皿へ移した。中から、妃が隠した小さな血糊袋まで出てきた。
王妃は金紙の署名を確認し、侍従へ命じる。
侍従長が広場中へ届く声で読み上げた。
「サヴェリナに王族籍剥奪、および恐喝・証拠捏造容疑による拘束命令を布告する」