産髪アルバム

写真修復の仕事をする二十七歳の四十物谷碧人は、古い家族写真を自動分類するアプリ「産髪」を試していた。開発者は不明。地方の産育習俗を収集した大学サーバーから、APKだけが見つかった。

説明文によれば、赤子の最初の髪を紙へ包み、家族の写真と一緒に保管する《産髪継ぎ》を画像認識で再現する。血縁者の顔を遡って探せるという。

撮影前の注意は一つだった。

《唱え終わるまで、前面カメラに抜けた髪を映してはいけない》

髪一本でも「顔より古い本人」と認識され、分類が逆転するらしい。

碧人は祖母の遺品写真を机へ並べ、アプリの唱え言を流した。意味の分からない七音が繰り返され、前面カメラの枠に彼の顔が映る。

途中、レンズへ細い髪が貼りついた。祖母のアルバムから落ちた白髪だと思った。取り除こうと指でつまみ、光に透かすため、反射的にカメラの前へ持ち上げた。

一度だけだった。

アプリは〈人物を検出しました〉と表示した。

髪には顔がない。それでも新しい人物アルバムが作られ、名前欄へ〈碧人〉と自動入力された。中には見覚えのない写真が二十七枚ある。

一歳。古い座敷で、髪だけが丸く束ねられている。

十歳。無人の教室の机に、黒髪が座る形で垂れている。

二十七歳。現在の部屋。椅子に座る碧人の背後で、白髪の束が彼の頭へ指のように伸びている。

撮影日時はすべて、碧人の誕生日だった。最後の一枚だけ翌日の日付になっている。椅子は空で、床に若い男の髪が一房落ちていた。

画像のメタデータには撮影機種が記録されていた。二十七枚すべて、碧人が現在使っている端末だった。最古の一枚のGPSは祖母の旧家、撮影者欄は〈髪〉。最新の一枚だけ撮影者が〈身体〉になっている。

その分類を開くと、残り時間が二十四時間から減り始めた。

碧人はアプリと写真を削除し、端末を工場出荷状態へ戻した。

翌朝、標準の写真アプリが自動で「思い出」を作った。祖母の写真から自分の顔だけが消え、白髪の束に置き換わっている。

通知には、普段と変わらない文が表示された。

〈一年前の今日――碧人さんが家族に加わりました〉

その下に、明日公開予定のアルバム名があった。

〈碧人さんが髪に戻った日〉