発見者欄は空白

午前二時、雲井禅司の観測端末へ、二十四時間後の自分から一文が届いた。

〈R帯の三枚目を捨てろ。〉

青いレンズキャップの横に、恒星ミモザ九の画像が並んでいる。三枚目を除くと周期的な減光がきれいに現れた。地球型惑星候補。午前六時までに速報を投稿すれば、禅司が第一発見者になる。任期切れ寸前の研究員にとって、常勤席を得る最後の機会だった。

投稿直前、別の観測所が先に発表した。午前六時、端末が暗転し、また二時へ戻る。

〈未来へ到達できなかったため、一文を再送できます〉

禅司は過去の自分へ「R帯三枚目を捨て、三時十二分に速報を出せ」と送った。

二周目は査読者に保留され、四周目は座標が競合した。青いキャップを指で回しながら、禅司は送信文へ差分を足した。七周目、世界最速の速報。だが観測所のサーバーが落ちた。十周目、バックアップ回線まで指定した。

十一周目、発見速報は受理された。記者会見の仮予定と、常勤採用の内示が届く。成功条件達成。

端末には確定用の一文が開いた。そのとき禅司は、捨て続けた三枚目を拡大した。減光の中央に、人工衛星の識別光がある。ミモザ九の「惑星」は、軍事衛星の姿勢変更が作った影だった。三枚目だけがそれを示し、未来の自分は発見を成立させるため除外させたのだ。

会見資料には、発見者として禅司一人の名が太字で入っている。青いレンズキャップは、落とした拍子に床を転がった。

禅司は確定文を消した。

〈発見者欄を空白にし、捨てた三枚目を含む全画像と解析コードを公開せよ。〉

午前二時へ戻る。

禅司は全データを公開サーバーへ上げ、速報を撤回した。軍事衛星の存在まで露出したため研究所は契約を失い、禅司も守秘義務違反で解雇された。惑星名も常勤席も消えた。

翌年、別の学生が公開データから装置の校正不良を発見した。論文の謝辞に禅司の名はなかった。

彼は町の科学館で子どもに望遠鏡を向けた。青いキャップを外すと、何も発見されていない星が見えた。空白のままの空は、驚くほど広かった。