白いシャツの違うボタン
鳥羽瀬瑛土は、友人の白いシャツを台無しにした。
共同のコインランドリーで、自分の赤い靴下を紛れ込ませたのだ。取り出したシャツは、全体が薄い桃色になっていた。
友人は翌週、そのシャツを着て写真を撮る予定だった。
仕事用の証明写真ではなく、趣味の合唱団のパンフレット。それでも白でそろえる決まりだという。
「染み抜きで戻るかな」
瑛土は深夜まで洗い直したが、桃色は消えなかった。
翌日、古着店を三軒回り、よく似た白いシャツを見つけた。
襟の形もサイズも同じ。ただし袖口のボタンが少し青い。
瑛土はこっそり洗濯籠へ入れた。
「色、戻った」
友人が帰宅し、白いシャツを見つけた。
「洗剤を変えた」
「ボタンも?」
「洗うと青くなる素材」
「便利だね」
友人はそれ以上訊かなかった。
撮影の日、白いシャツは問題なく役目を果たした。
帰宅した友人が、桃色のシャツを鞄から出した。
「古着店の紙袋、捨て忘れてた」
瑛土は観念した。
「弁償するつもりだった」
「こっち、悪くないよ」
友人は桃色の布を窓へかざした。
「春の公演なら使える」
「怒ってない?」
「赤い靴下を入れたことには怒ってる」
「すみません」
「でも白く戻ったって嘘は、まあ許す」
二人で袖口のボタンを外し、付け替えた。
新しいシャツへ元の白いボタンを、桃色のシャツへ青いボタンをつける。
瑛土の縫い目は不格好で、友人が裏から糸を結び直した。
「これで、どっちも別物」
「白い方は元に戻った」
「戻ってない。二人で直した新しい方」
作業が終わるころ、夜食の湯が沸いた。
即席のわかめスープへ胡麻を振り、二人で床へ座る。
湯気に海藻と洗剤の匂いが混じった。
春の公演で、友人は本当に桃色のシャツを着た。
合唱団の中で一人だけ違ったが、舞台監督が「春らしい」と許したらしい。
白いシャツは夏用に取ってある。
洗濯籠の底には、問題の赤い靴下が片方だけ残った。
友人は捨てず、「染色担当」と書いた袋へ入れた。
二人だけが知る違うボタンは、失敗を隠す目印ではなく、嘘をほどいて一緒に縫い直した夜の、小さな青い印になった。