白紙が最後に残る

灰谷比奈乃は、投票用紙を細く丸めて飲み込んだ。

東雲英秋が絶句し、柿崎桃子は「失格になる」と叫んだ。

規則は一文だけだった。

〈裏切り者ではない人物へ票を投じた非裏切り者を処刑し、最後に残る非裏切り者を解放する〉

三人のうち一人が裏切り者。裏切り者本人の票は判定対象外だ。二人の非裏切り者は、正しく裏切り者へ投票すれば生き、間違ってもう一人の非裏切り者へ投票すれば死ぬ。

英秋と桃子は、投票が義務だと思って互いを探った。比奈乃は「投票しなかった者を処刑する」という文がないことに気づいた。

票を投じなければ、非裏切り者へ誤投票することもない。

『投票ゲームで投票を拒否するのですか』

「投票を義務にしたいなら、そう書けばいい」

『未提出は無効票です』

「無効なのは票。私の生存資格じゃない」

残り三十秒。英秋は桃子へ、桃子は比奈乃へ票を入れた。二人とも、紙を消した比奈乃が秘密役職を隠していると思ったのだ。

集計。

〈裏切り者、東雲英秋〉

〈柿崎桃子の投票先、灰谷比奈乃――非裏切り者〉

〈処刑〉

桃子の首輪が赤くなる。英秋の票は裏切り者の票なので判定されない。比奈乃には投票記録そのものがない。

〈残存する非裏切り者、灰谷比奈乃〉

首輪が外れた。

英秋が低く笑う。

「俺が裏切り者だと当ててもいないのに」

「当てるのが勝利条件じゃない。外さないことが条件だった」

『白紙提出ならともかく、用紙を破壊する必要はありません』

比奈乃は喉を押さえ、苦い紙の味に顔をしかめた。

「白紙でも、投票箱に入れた行為を『誰にも投じなかった票』と勝手に解釈されるかもしれない。だから票そのものをなくした」

安全扉が開く。

彼女は振り返り、投票箱の底を見た。二枚の紙と、一つの空白。

「選ばないことを、臆病と決めつけた人から死ぬ部屋だったね」

主催者は返事をしなかった。