百二十七番ロッカーの神
駅の遺失物係は、保管期限を過ぎた品を一つずつ処分していた。
傘、手袋、玩具、写真のない写真立て。
百二十七番ロッカーを開けると、古い制服を着た小さな神様が、忘れ物の山へ埋もれていた。
帽子には「預」と書かれている。
「探し物を一つ持ち主へ返すたび、迎えへ行ける」
神様は言った。
「ただし、もてなす者が、別の探し物を一つ諦めねばならぬ」
係員には、諦められない物があった。
二十年前、幼い息子が駅で失くした青い玩具の列車。
その後、息子は病気で亡くなった。
係員は異動を断り、この駅へ残った。いつか玩具が届く気がして、今も遺失物を調べている。
その日、年配の女性が古い手帳を探しに来た。
亡くなった姉の住所録で、疎遠になった親戚へ連絡する手がかりがあるという。
届け出の特徴は、百二十七番ロッカーの底にある茶色い手帳と一致した。
神様は係員を見上げた。
「何を諦める」
係員は玩具の列車と言えなかった。
代わりに、壊れた傘を一つ選んだ。
「これを探すのをやめる」
「おぬしが探しておる物ではない」
神様は動かなかった。
年配の女性は、
「期限なら仕方ありません」
と帰ろうとした。
係員はロッカーの奥から手帳を取り出した。
規則上、本人確認ができれば返せる。
神様の力がなくても、仕事として渡せる物だった。
女性は頁を開き、泣いた。
姉の字で、家族の誕生日と、電話をかけては切った日付が何年分も残っていた。
「姉も連絡したかったのね」
と呟いた。
その夜、係員は青い玩具の届け出を台帳から外した。
見つからなくてよいと思ったわけではない。
列車を探すことを、息子を覚えている唯一の方法にするのをやめた。
「諦める」
神様へ言うと、百二十七番ロッカーが小さく鳴った。
神様は立ち上がり、係員の胸ポケットへ入った。
「迎えへ」
駅の外まで連れていくと、神様は改札脇の光へ溶けた。
代わりにポケットへ、小さな青い車輪が一つ残った。
あの玩具の物かは分からない。
係員は鑑定せず、台帳にも載せなかった。
家へ持ち帰り、息子の写真の前へ置く。
列車そのものを取り戻さなくても、息子と駅を歩いた記憶は残っていた。
翌日からも忘れ物は届く。
係員は、持ち主が現れる物を丁寧に返し、現れない物は期限どおり手放す。
探し続けることだけが、大切にすることではなかった。