眠るたび、娘は
鶴ヶ谷清隆が目を覚ますと、死んだ娘が枕元に座っていた。
珠緒は七歳の姿だった。
白血病で亡くなった日のまま、短い髪に黄色い帽子をかぶっている。
「お父さん、寝すぎ」
「珠緒?」
抱きしめようとすると、腕は冷たい空気を通り抜けた。
清隆は眠るのが怖くなった。
病院で付き添っていた最後の夜、ほんの十分うとうとしたあいだに、娘の呼吸は止まった。
看護師は苦しまなかったと言ったが、清隆は自分だけ眠っていたことを許せなかった。
二人で居間へ行き、昔のアニメを見た。
午前二時、清隆はソファで一瞬まぶたを閉じた。
目を開けると、珠緒は八歳になっていた。
背が伸び、帽子が少しきつそうだった。
もう一度うとうとすると、九歳になった。
眠るたび、珠緒は一歳ずつ大きくなった。
清隆はコーヒーを何杯も飲んだ。
「寝ないの?」
「寝たら、また大きくなる」
「大きくなっちゃだめ?」
「だめじゃない」
「じゃあ寝て」
清隆は横になった。
十歳の珠緒は算数が嫌いだと言った。
十二歳では、制服は紺がいいと言った。
十五歳になると、父の選んだ服はださいと笑った。
十八歳では、遠い大学へ行きたいと言った。
どれも珠緒が生きていれば言ったかもしれない言葉だった。
本当の珠緒がどう育ったかは、誰にもわからない。
目の前の娘は、清隆の願いが作った姿かもしれない。
それでも声を聞くたび、失った年月に形が与えられた。
二十二歳の珠緒が、台所で卵焼きを焦がした。
二十七歳では、仕事を辞めたいと愚痴をこぼした。
三十一歳になると、清隆の白髪を指摘した。
「お父さんも寝るたび年を取ればいいのに」
「十分で一歳は困る」
「私は困らない?」
「困る」
「でも、見たいんでしょう。私の続き」
清隆はうなずいた。
次に目覚めると、珠緒は四十歳ほどになっていた。
目元が妻に似ていた。
「もういいよ」
珠緒が言った。
「何が」
「起きてていいよ。朝まで」
清隆は首を振った。
「もう少し見たい」
「おばあちゃんになるよ」
「見たかった」
珠緒は泣きそうに笑った。
清隆は目を閉じた。
何度眠ったかわからない。
最後に目を覚ますと、枕元には黄色い帽子だけがあった。
窓の外が白んでいる。
清隆は帽子を胸に抱いた。
娘を置いて眠った夜を、ずっと悔いていた。
けれど一夜かけて、眠るたびに娘を見送った。
その朝、清隆は七年ぶりにカーテンを開け、寝室の時計を止めずに仕事へ出た。