砂漠に埋めた水

国境軍は、半日の行軍で水を失った。

「次の補給箱はどこだ!」

 司令官ボルガスが砂丘の上で怒鳴る。地図には赤い印がある。兵士たちはそこを掘ったが、出てきたのは空の樽と古い杭だけだった。

 荷物持ちのサリナを追放したのは前夜だ。王都出身の兵士に指図したうえ、行軍用の水を勝手に小分けした罪だという。大樽のほうが立派で効率的だと、彼女の革袋は砂へ捨てられた。

 だが砂漠では、目印が一晩で埋まる。サリナは地図の点ではなく、風紋と岩の影を読み、補給袋を三か所へ分けて埋めていた。赤い印は「昨日の場所」ではなく、「太陽が槍二本分傾いた時、双子岩の短い影から北へ二十歩」という手順の省略だった。サリナは毎朝、風向きに合わせて補給線を書き直していた。それを兵士たちは、荷物持ちが地図へ落書きしているだけだと思っていた。

「地図どおり掘ったぞ!」

「その地図を読めたのはサリナだけです」

 兵士の一人が答えた直後、大樽の栓が熱で弾けた。残りの水が砂へ吸われていく。遠征最初の敵は、帝国軍ではなく乾いた風になった。軍旗は進軍ではなく、救援を呼ぶために振られた。兵たちは空の水筒を鳴らしながら、来た道を戻り始めた。

 一方サリナは、砂漠中央の小さなオアシスで、水袋へ四色の紐を結んでいた。

「青は今夜、黄は明朝、白は負傷者用。黒は最後まで開けません」

 族長ハディルは、子どもにも同じ説明をさせた。全員が迷わず正しい袋を指す。

「我々は毎年、旅人を渇きで失ってきた。量が足りないのではなく、誰がいつ開けるか決まっていなかったのだな」

 その日の試験で、最年少の水汲み係まで正しい袋を選べた。砂嵐で大人が散り散りになっても、誰か一人の記憶に頼らず水を守れる。

 サリナの仕組みで、隊商三組が砂嵐を越えた。彼女は《水路案内官》として井戸の鍵を預けられる。

 夕暮れ、軍の早馬が泡を吹いて到着した。

「司令官命令だ。埋めた水の場所を教え、直ちに復隊せよ。反抗すれば脱走兵として――」

 サリナは追放証明書を示した。そこには「軍籍を永久に剥奪する」と司令官自身の署名がある。

「この署名が執行された時点で、国境軍との補給契約は終了しています」