砂葬の棺に玉座が生えた

「魔力ゼロの役立たずは、砂に返すのが慈悲というものだ」

砂漠王の弟が笑い、柊木奏の入った石棺へ最後の蓋を載せた。

奏は異世界へ転生し、井戸掘りの知識で辺境村を救った。だが水利権を握る王弟にとって、無料の井戸は反逆だった。

判決は砂葬。

石棺を砂丘の底へ沈め、上から百台の荷車で砂を落とす。棺の小穴から、乾いた砂が雨のように流れ込んできた。

棺の外では、村人たちが井戸を埋め戻すよう命じられていた。逆らえば同罪。奏が救った老人も少女も、唇を噛みながら砂を運ぶ。王弟は日傘の下で、水一杯を金貨一枚で売る新しい布告へ署名していた。

息が苦しくなる。

そのとき、奏の視界に黄金の文字が浮かぶ。

《砂王権》

周囲の砂すべてに、一度だけ形を命じる。

剣も炎も出せない。

だが前世で建築模型を作っていた奏には、砂がただの墓には見えなかった。砕かれた石の集まりなら、組み直せる。

「形は、城。中心に空気。入口は東」

能力を使った。

地鳴りが砂漠を走る。

石棺を埋めていた砂が一粒残らず逆流し、柱となり、梁となり、透明な壁となった。圧力で結晶化した砂は黄金の硝子宮殿を築き、奏の棺を最上階の玉座へ押し上げる。

蓋が花弁のように割れた。

外では処刑を見物していた王弟の天幕が、突然現れた宮殿の影に呑まれていた。

高さは王都の尖塔の三倍。壁の内部には、砂漠全域の地下水脈が青い線として透けて見える。

王国の測量官が水脈計を取り出した。

針はこれまで空白だった地点を次々と示し、最後には砂漠の下に巨大な地下湖を描いた。情報量に耐えきれず、羊皮紙も水晶針も粉となる。

「消せ!」王弟が叫んだ。「これは幻だ!」

奏は玉座から答えなかった。

一度きりの命令は終わっている。それでも宮殿は崩れず、朝日を七色に分けて砂漠中へ返した。

地下湖を示す光は、処刑を見に来た村人たちの足元まで伸びている。

一人が膝をつき、次の一人が続いた。忠誠ではなく、ようやく水を見つけた者の感謝だった。

遅れて到着した砂漠王は、硝子宮殿を見上げたまま馬から降りた。

王弟のためではない。

棺から立ち上がった奏へ、正式な王礼を取るためだった。