空のフード袋
西原万葉は、未開封のドッグフードを紙袋へ詰めた。ミモザが食べられなくなってから届いた定期便で、二キロ袋が三つある。返品期限は過ぎていた。
午後、獣医に「今夜はそばにいてください」と言われた。家へ戻ったミモザは玄関マットに伏せ、袋を動かす音だけに耳を向けた。十五年間、フードの袋を開ける音には誰より早く反応した犬だった。
近所のペット用品店には、保護団体への寄付箱がある。閉店まで四十分。万葉は紙袋をカートへ載せ、ミモザにも歩行用のハーネスをつけた。
散歩は店までの一本道だけにする。歩けなくなったらカートの上へ乗せる。そのためにフード袋を一つ減らし、空けた場所へタオルを敷いた。
ミモザは最初の角まで自分で歩いた。焼き鳥店の煙に鼻を上げ、植木屋の前で水の音を聞いた。二つ目の角で座り込んだので、万葉は紙袋を地面へ降ろし、ミモザを抱えてカートへ入れた。三つの袋の間に収まると、耳だけが外へ出た。
店員は寄付箱を開けてくれた。透明なケースには缶詰、ペットシーツ、古い毛布が積まれている。万葉は一袋ずつ持ち上げた。ミモザの食べていた小粒タイプ。シニア用。チキン味。
最後の一袋を入れたとき、ミモザが鼻先をケースへ伸ばした。万葉は開けようか迷ったが、獣医に食べさせないよう言われている。代わりに袋の外側を指でこすり、匂いのついた手を鼻へ近づけた。
ミモザは一度だけ舐めた。
店員が寄付箱のふたを閉める。万葉は空になった紙袋を畳み、カートの底へ敷いた。帰りはそこへミモザだけを乗せた。
玄関でカートを止め、紙袋を抜く。底には丸いへこみと、白い毛が三本ついていた。万葉は袋を資源ごみの束へ重ね、ひもを結んだ。
店員は寄付品の受領票を出そうとした。万葉は名前を書く欄を見て、不要です、と断った。代わりにケースの横へ貼られた「ありがとうございます」の紙をまっすぐ直す。ミモザのカートが触れ、下の角だけがめくれていた。
結び目を引くと、三つ分の重さがなくなった束は、片手で持ち上がった。