空欄の赦免簿
夜明けの処刑簿には、九人の名が並んでいた。
罪状は異端、冒涜、献金拒否。記録係ノイラ・エスカランデは、添付された証言がすべて同じ筆跡だと知っていた。修道院が畑を奪うために作った罪人たちである。
赦免簿の名を一つ消せば、処刑は無効になる。
ただし神聖インクは代価として、消した者の名から一音を奪う。その音は本人の記憶からも、他人の記憶からも、すべての記録からも消える。
ノイラは羽根ペンを取った。
一人目の名を削る。
署名欄の《ノイラ・エスカランデ》から、最初の「ノ」が抜けた。彼女自身も、それがどんな音だったか思い出せない。
二人目。「イ」が消える。
廊下の番兵が扉を開け、「ラ・エスカランデ殿」と呼んだ。不自然さに気づかない。
三人目。四人目。
名は短くなるたび、身体から影が薄く剥がれるようだった。家族の手紙にある宛名も、母が刺したハンカチの文字も変わっていく。
五人目を消したところで、院長エゼクが帳場へ入ってきた。
「何をしている」
「誤記の訂正です」
彼は簿面を見て、顔を歪めた。五つの空欄は、罪人が最初から存在しなかったことを意味する。存在しない者は処刑できない。
エゼクがペンへ手を伸ばす。ノイラはインク瓶を倒し、彼の袖を黒く染めた。その隙に六人目を消す。
自分の名は《カランデ》になった。
七人目。《カラデ》。八人目。《カラ》。
院長が彼女の髪をつかんだ。
「最後の一人は火刑を止めた女だ。残せば教会の威信が崩れる!」
窓の外で、刑吏が囚人を柱へ縛っている。火口へ松明が近づく。
ノイラは最後の名にペン先を押しつけた。
「あなたの威信より、長い名前でよかった」
線を引く。
九人目の文字が消えた。
同時に、署名欄は完全な空白になった。
処刑台で鎖が外される。赦免簿に名のない罪人は、罪人ではない。見物人が歓声を上げ、刑吏たちは院長の命令を無視した。
エゼクは帳場の女を捕らえろと叫んだ。
番兵は困った顔をした。
「どなたを?」
院長は彼女を指さしたが、呼ぶべき名がない。雇用簿にも洗礼簿にも、彼女へつながる文字は残っていなかった。
女自身も、胸に手を当てて首をかしげた。
九人が名を取り戻した朝、記録係の椅子に座っていたのは、世界のどこにも記載されていない空欄だった。