窓を二枚開けた治療師

冬宮の熱病棟は、薬草より先に空気が尽きていた。

窓は寒気を恐れて釘打ちされ、二十八人の患者が一室に詰め込まれている。汗、嘔吐、炭火の煙が天井へ溜まり、見回りに入った者まで頭痛で倒れた。

「風で病が広がる。窓に触れるな」

宮廷治癒師長エルザークは、建築設備を学んでいた琴葉を掃除係としか見なかった。

琴葉が使った知識は一つ。向かい合う開口部を作り、空気を通すことだった。

彼女は南窓の釘を抜き、反対側の高窓も一枚だけ開けた。患者へ風を直撃させないよう寝台の布幕をずらす。すると白く濁っていた室内を、細い風の道が走った。天井の煙が高窓から抜け、南窓の薄布が外から内へ膨らむ。十分もすると、入口に立っていた看護係が深く息を吸った。薬草の香りが初めて分かる。曇っていた窓硝子の内側から水滴が消え、患者の顔色まで見えるようになった。

「閉めろ! 患者を凍えさせる気か」

琴葉は返事の代わりに、入口と寝台脇へ同じ長さの蝋燭を置いた。昨日、寝台脇の火は十分で消えた。今日の火は一時間たってもまっすぐ燃えた。

患者の呼吸数を記した札も変わった。最も重い少年は一分四十二回から二十八回へ。頭痛を訴えた看護係は九人から一人へ減り、昼までに三人の患者が粥を求めた。室温は一度しか下がっていない。

治癒師長は、魔力検査の水晶を琴葉へ向けた。反応はゼロ。彼女は魔法で空気を浄化したわけではない。ただ、汚れた空気の出口を作っただけだ。

三日後、閉め切った東棟では新たな発熱者が十三人。琴葉の西棟では二人。国王付きの侍医ミレオンが記録板を読み、釘で塞がれた窓を見上げた。

「この宮殿は、患者を守るための壁で患者を弱らせていたのか」

琴葉が二枚目の窓へ手をかけると、治癒師長が道を塞いだ。止めるためではない。自ら釘抜きを差し出すためだった。

侍医は王印付きの改修命令を机に置く。

「全病棟の窓を、あなたの配置で開けます。琴葉殿、王立治療院の環境監督官に就任してください」

二十八枚の薄布が、同時に呼吸するように揺れた。