竜の喉から棘を抜く鈴

王宮の幼竜が暴れ、飼育塔を半壊させた。

兵士は槍を構え、宮廷魔術師は眠りの呪文を唱えた。だが幼竜は炎を吐き、ますます苦しそうに首を振る。エフィには怒っているように見えなかった。餌桶は空なのに水へ口をつけず、右の頬だけを床へ擦りつけている。吠えるたび、飲み込めない唾液が牙から落ちた。処分命令が下るまで、あと十分。

獣舎番のエフィは、給金代わりに押しつけられた確定SSRガチャ玉を握った。

必要なのは竜を倒す武器ではない。近づくための、たった一度の静けさ。

玉を割ると、革紐の先に小さな鈴がついた首輪が出た。

《痛みを預かる鈴》

音を聞いた生き物の痛みを、原因が見えるまで一時的に鈴へ移す。

エフィは柵を越えた。

「馬鹿、戻れ!」

幼竜が口を開く。彼女は鈴を一度だけ鳴らした。

ちりん。

炎が消えた。幼竜は驚いたように瞬き、その場へ腹ばいになる。代わりに鈴が激しく震え、エフィの指へ鋭い痛みが伝わった。

喉だ。

彼女は槍を捨てさせ、両手を見せながら近づく。幼竜の顎の下には何もない。口を開けてもらうと、奥に黒い棘が刺さっていた。餌に混じった魔鉄片だった。

「少しだけ我慢して」

飼育塔の誰も近づけないため、エフィは自分の道具箱から長い鉗子を出した。幼竜の舌を傷つけない角度を選び、呼吸が止まる一瞬に合わせて棘を抜く。

幼竜は咳き込み、床へ拳ほどの鉄片を吐いた。鈴の震えが止まる。次の瞬間、竜はエフィの胸へ鼻先を押しつけた。兵士たちが息を呑む中、彼女の膝へ大きな頭を載せ、目を閉じる。

飼育長が鉄片を拾い、顔色を変えた。

「これは兵器庫の廃材だ。餌箱へ捨てた者を調べろ」

処分命令は撤回され、餌の保管責任者も交代した。兵士たちは槍ではなく掃除道具を持ち、壊れた獣舎の片づけを始める。幼竜はその後も誰の命令も聞かなかったが、エフィが鈴のない革紐を見せると、自分から首を差し出した。

その鱗に金の文字が浮かぶ。

《SSR〈痛みを預かる鈴〉――神竜種から自発的信頼を得た初の使用例として記録》