竜の遺産はよく燃える
千年竜ヴァルグレスが死ぬと、王国中の勇者が洞窟へ集まった。遺言の石板にはこう刻まれていた。
〈わが最も貴重な宝は、最も勇敢な者に〉
騎士アルデンが剣を抜いた。
「宝は王国へ献上する」
盗賊ミレカが鼻で笑う。
「献上した後で爵位をもらう気でしょう」
魔術師ゾフは眼鏡を直した。
「学術的価値を考えれば、魔術院が保管すべきです」
「保管という名の独占ね」
「盗賊に倫理を説かれたくない」
三人は洞窟の奥へ進んだ。金貨の山、宝冠、魔剣が並んでいたが、石板には矢印があり、さらに奥を示している。
「これらは“最も”ではないらしい」
「では前菜ね」
「宝を料理の順で数えるな」
最深部には、台座の上に巨大な赤い宝石が一つあった。表面は温かく、かすかに脈打っている。
アルデンが手を置いた。
「竜心石だ。選ばれし騎士が受け継ぐ伝説の核」
ミレカも反対側をつかむ。
「先に触ったのは私」
「両手を伸ばしただけだ」
「盗賊の腕は速いの」
ゾフは巻尺を出した。
「共有財産として三等分を提案します」
「切る気か!」
「魔力線に沿えば損失は二・七パーセント」
「命あるように動いてるでしょう」
「宝石にも熱膨張はある」
三人は宝石の分配条件まで口にした。
「私は王都の博物館へ展示する」
「入場料の七割を取るでしょう」
「私は闇市で公平に競売する」
「闇市と公平を同じ文に置くな」
ゾフは羊皮紙へ契約を書き始めた。
「孵化、爆発、呪いの場合の責任も三等分」
「そんな条項が必要な宝を切るな!」
三人が引っ張り合うと、赤い殻にひびが入った。
「お前が壊した!」
「騎士が強く引いた!」
「責任割合を算定する前に退避を!」
殻が割れ、炎が噴き出した。手のひらほどの子竜が顔を出し、三人を順番に見た。
石板の裏側が熱で剥がれ、続きが現れた。
〈なお、卵が孵化した場合、相続人は共同で養育すること。食費、火災保険、近隣への賠償を含む〉
子竜はアルデンのマントを燃やし、ミレカの財布を食べ、ゾフの眉毛を焦がした。
洞窟の入口から王国の役人が顔を出した。
「相続税の納付方法ですが」
三人は声をそろえた。
「相続放棄します!」
子竜が初めて鳴いた。
石板の最後の一行が光った。
〈放棄不可〉