第三の太鼓鋲
バヨ・ンデレは、降伏の太鼓を叩きながら敵柵へ歩いた。
山羊皮の胴を留める青銅鋲は十二。三番目の鋲だけが中空で、巻いた樹皮紙が入っている。密書には、敵の牛門が月没の直前だけ開くこと、その半刻に味方の騎兵を入れろと書かれていた。
見張りはバヨの槍を折り、腰布まで探った。太鼓の皮も小刀で裂いた。
「何もないな」
隊長クンバ・ザラが言った。
バヨは破れた太鼓を抱え直した。
「降る者の歌まで裂くのか」
「歌は腹に隠せる。紙もな」
クンバは太鼓を逆さにし、胴を火へかざした。鋲が熱で膨らめば継ぎ目が分かる。バヨは三番目だけを見ないようにした。見る場所は売る場所になる。
やがて一番鋲の根から樹脂が垂れた。古い修理跡だった。クンバはそこへ刃を入れ、木片を剥いだ。空洞はない。
「こいつは間者ではない。下手な太鼓打ちだ」
「下手なら、なぜ生かす」
「明朝、首を刎ねる音が要る」
兵が笑った。バヨも笑った。太鼓は戦利品として、敵王の奏者エボ・ンガイへ渡される。エボがこちら側の人間だと知るのは、もう生きている者では三人しかいない。
日暮れ前、兵が太鼓を蹴って遊んだ。破れた皮から砂を入れ、十二の鋲を短刀の柄で叩く。三番目に柄が落ちた時、バヨは目を閉じなかった。中空の鋲は低い音を返したが、周囲では酒樽を開ける音が重なった。戦場では、秘密を守るのは沈黙ではない。もっと大きな雑音だった。
牢番が最後の水を持って来た。バヨは半分を飲み、半分を柱の根へ捨てた。騎兵が来れば、ここは蹄で踏み潰される。自分の血と水の区別など、誰にもつかなくなる。
夜、バヨは処刑柱へ縛られた。王幕から、破れた太鼓を直す槌音が聞こえる。一つ、二つ。長い間を置いて、三つ目。
鋲が抜かれた合図だった。
月が森の端へ沈む。牛門では、夜ごと家畜の糞を捨てるため、兵が閂を外す。エボは密書を読み、門番へ酒を回すはずだ。
クンバが処刑刀を研ぎながら言った。
「最後に叩きたいか」
「太鼓はもう、必要な音を出した」
遠い牛門の櫓に、黄色い布が一本上がった。