答案は二度折られた
折原木美弦の答案だけ、中央で二度折られていた。
国語の実力試験。返却された答案は零点で、余白に模範解答を書き写した跡があるとされた。
「採点後に答案を盗み、書き足したのでは?」
花山院亜由教諭は、職員会議でそう説明した。美弦は図書委員で、鍵の管理場所を知っている。それが疑いの根拠だった。
美弦は自分の答案を見つめた。普段、提出物は必ず左から一度だけ折る。二度折りはしない。
「答案保管室の映像を見せてください」
花山院は、カメラは廊下しか映していないと拒んだ。だが副校長が確認すると、前年の答案紛失を受け、室内にも小型カメラが追加されていた。
映像には、採点日の午後六時、花山院が一人で保管室へ入る姿が映る。美弦の答案を封筒から抜き、別の紙と並べて何かを書き写したあと、中央で二度折って戻していた。
花山院は教材研究だと言った。
美弦は答案の裏へ紫外線ライトを当てた。図書委員が蔵書点検で使うものだった。紙の端に、淡い数字が浮かぶ。
試験用紙には不正交換防止のため、ページごとに連番の蛍光印刷が施されていた。美弦へ返された答案の番号は、欠席者用の予備紙。本人が書いた答案ではない。
本物は、花山院の机の鍵付き引き出しから見つかった。九十二点だった。そこには書き足しもなく、折り目は左に一つだけ。提出時に押された透明な確認印も残り、美弦が書いた原本であることが改めて証明された。
さらに廊下の映像では、花山院の教え子で推薦候補の生徒が、保管室前で待っている。二人の会話も天井マイクに残っていた。
『折原木さんが失格なら、評定一位はあなたよ』
職員会議は臨時の調査会へ変わった。花山院は担任と採点業務から外され、推薦候補者の評定操作も調べられることになった。
副校長は零点の答案を証拠封筒へ入れ、本物の答案を美弦へ返す。
「二度折られたほうが偽物だった」
正式な成績欄へ九十二点が入力された瞬間、一つだけの折り目が、美弦の言葉よりまっすぐ真実を示した。