細くしない腕

宇田川美緒の画面には、笑う花嫁と、その肩へ手を置く母親が映っていた。

結婚写真の納品前日。スタジオ責任者は花嫁の二の腕を囲み、〈二十パーセント細く〉と赤字で指示した。

「本人から希望は来ていません」

「希望される前に整えるのがプロ。女性は、見たら絶対こっちを選ぶから」

美緒は変形ツールを動かした。腕は細くなったが、手首の銀色の腕輪まで楕円に歪んだ。打ち合わせメモを開くと、花嫁の言葉が一行残っている。補正前の写真では、母親と花嫁の腕の丸みがよく似ていた。二人とも腕輪へ指を添え、同じ角度で笑っている。自動補正をかけると、花嫁だけが母親との輪郭から切り離され、借りた腕輪も別の品のように細くなった。

〈母が結婚式で着けた腕輪を借ります。傷も含めて、よく見える写真がほしい〉

後輩は隣で、顎と腰にも補正ポイントを置いていた。

「これ、全部やるんですか」

「本人が頼んだところだけにしよう。頼まれていない体を、私たちの好みで直さない」

美緒は腕の形を元へ戻し、腕輪の傷にだけ光が当たるよう明るさを整えた。肌の一時的な赤みやドレスについた糸くずは消したが、笑ったときにできる頬の線は残した。責任者は完成画面を見て、首を振った。

「修整が少ないと、追加料金を取れないよ。きれいにする仕事でしょう」

美緒は、きれいという言葉の中に、誰の希望が入っているのかを確かめたかった。そこで二種類の見本を送る代わりに、補正内容を選べる確認票を作った。輪郭、体形、肌、背景。それぞれ〈希望する・希望しない〉を本人が選べるようにした。

花嫁から返ってきたのは、〈体形補正は希望しません。腕輪を残してくれてうれしいです〉という返信だった。

美緒はそのメールを作業記録へ添付し、責任者の一括補正指示を外した。勤務後、以前から声をかけられていた小さな写真室の契約書を開く。そこには、人物の体形を変える修整は本人の明示同意を必要とする、とあった。

美緒は署名欄へ自分の名前を入力した。