終電後の四番線

終電が出たあと、朽葉翠の勤務する駅の四番線だけで、一曲が再生できた。

ホーム端のQRコードは昼間なら広告サイトへ飛ぶ。午前一時二分以降に読むと、黒い再生画面が開き、レールの継ぎ目を叩く音がイントロを刻んだ。

「乗らないで」

翠の婚約者は一年前、同じ四番線で死亡した。駅は「酔って線路へ転落」と発表したが、彼は酒を飲まない保線員だった。事故の夜、彼はポイント切替装置の不正を調べていた。遺品の作業手帳には、四番線の欄だけ黒く塗り潰され、紙の端に油の指跡が残っている。

Aメロは、遠ざかる車輪音を逆向きに並べていた。翠がイヤホンを外すと、実際の線路からも同じ振動が返る。終電後のはずなのに、接近表示が一瞬だけ赤く点き、無人のホームへ風が先に滑り込んだ。時刻表にない回送列車が、毎週同じ夜に通過している。

「乗らないで」

二度目の声で、翠は直生が自分へ逃げろと訴えているのだと思った。だがサビに入ると再生画面が線路図へ変わり、音符がポイントの切替順を示した。回送列車は四番線を通らず、保守用の側線へ入る設定になっている。ところが事故の夜だけ、手動操作で四番線へ曲げられていた。

トンネルの奥に白い灯りが現れた。今夜の回送だ。翠は非常停止を押したが反応しない。駅長が背後から現れ、黙っていれば婚約者の補償金は守られると言った。彼こそ、違法な廃棄物を夜間列車で運ぶため、記録を見た婚約者を線路へ呼び出した人物だった。

曲の最後のブレイクで、翠は婚約者の作業手帳をレール際の読取器へかざした。隠された保守タグが反応し、ポイントが切り替わる。回送列車は四番線を外れ、照明のついた検査側線へ入った。積荷と駅長の顔が、待機していた捜査員の前に晒される。

最後の一音。婚約者の声を模した合成音声が、駅長の端末からも流れた。

「乗らないで」

翠に危険な列車へ乗るなという遺言ではない。駅長が積み上げた偽りの筋書きに、もう誰も乗るなという告発だった。