茶色いおかず

中学一年の陽茉は、自分の弁当が嫌いだった。

祖父の惣菜店で作るため、煮物、きんぴら、鯖の生姜煮と、どれも茶色い。友達の弁当には花形の人参や、星のついたピックがある。蓋を開けるたび、陽茉は腕で隠すように食べた。

調理実習の日、クラスで弁当のおかずを一品ずつ紹介することになった。陽茉は最後まで迷い、祖父の里芋の煮物を持っていった。

透明な容器の中で、里芋はやはり地味だった。ほかの班にはカラフルなカップや、顔のついた卵が並んでいる。

「これ、何味?」と同じ班の奏実が訊いた。

「普通の煮物」

一つ食べた奏実は、しばらく黙ってから「中まで味がする」と言った。

先生も味見し、「出汁を冷ますときに含ませているのね」と説明した。陽茉は初めて知った。祖父は鍋を火から下ろしたあと、何度も蓋を開けていた。冷ましているだけだと思っていた。

班のみんなが箸を伸ばし、容器はすぐ空になった。派手な反応ではない。ただ、「もう一個ない?」と訊かれた。

帰宅後、陽茉は店の奥で里芋を煮る祖父を見た。

「味って、冷めると入るの?」

祖父は鍋から顔を上げ、「弁当は冷めてからが本番だからな」と言った。

翌朝、陽茉は自分で煮物を一つ詰めた。隣に赤いミニトマトを置こうとして、やめた。茶色いままでもいい。

昼休み、蓋を開けると、生姜と醤油の匂いがした。奏実が隣から覗き、「今日も中まで味するやつ?」と笑う。

陽茉は里芋を半分に割った。中心まで薄い茶色に染まっていて、湯気はないのに、朝の鍋の温度を思い出せた。

週末、陽茉は店を手伝い、煮上がった里芋を番重へ移した。湯気で眼鏡が曇る。祖父は味見を急がせず、「冷めるまで待て」と言う。放っておく時間にも役目があるらしい。夕方に一つ食べると、醤油の味が中心まで届き、昼の教室より温かな香りが鼻へ抜けた。

翌週、奏実が祖父の店へ来た。二人で硝子ケースを覗き、いちばん茶色い牛蒡を選ぶ。祖父は紙箱へ多めに詰め、冷めるまで蓋をしなかった。夕暮れの店先に、出汁と土の匂いがゆっくり流れた。