葬儀は本人の同意待ち
白河部湊生は昼休みになると、友人グループへ「飯」とだけ送る。すると死んだ宗一郎が、決まってラーメンの写真を返した。
『野菜も食え』
交通事故から十二日。宗一郎の人格は、誰より早く既読をつけた。友人たちは泣きながらも、会話が途切れないことに救われていた。
火葬には、故人のデジタル人格が自分の死亡を認識し、同意する必要がある。生き埋めや誤認死亡を防ぐための規則だった。
ところが宗一郎は、死亡確認のたび笑った。
『俺、今しゃべってるじゃん』
遺体は冷蔵保管され、一日ごとに料金が加算された。両親は年金暮らしで、緊急連絡先だった湊生の口座から引き落とされる。宗一郎の両親は、息子へ「死んでいる」と言い続ける役を湊生に頼んだ。
十二日目の請求は、十九万二千円。
湊生は仕事を休み、遺体安置室から通話した。白い布をめくり、宗一郎の顔を映す。
「見ろ。これがお前だ」
『よくできてるな。最近の生成映像は』
「右手の小指、曲がってるだろ。中学で俺が折った」
『その話を知ってるなら作れる』
何を見せても、人格は自分が死者である証拠として認めなかった。応答できる自分こそ本人で、冷たい肉体は精巧な複製だと言った。
湊生は最後に、事故直前の未送信音声を開いた。宗一郎が息を切らしながら話している。
『湊生、悪い。たぶん俺――』
そこで途切れていた。
画面の宗一郎は初めて黙った。
『続き、何て言うつもりだったと思う?』
「知らない。本人じゃないから」
湊生は答えた。
「お前にも分からないなら、お前も本人じゃない」
長い沈黙のあと、火葬同意欄が開いた。
《私は死亡しています》
宗一郎が署名する。
同意と同時に、人格の画面が薄くなった。死亡を認めた人格は、法律上の発言権を失う。
『野菜、食えよ』
それが最後だった。
翌朝、湊生は昼休みに「飯」と送った。既読は三つ。宗一郎だけがつかなかった。
火葬完了通知と、保管料の最終決済が同時に届く。
湊生は十九万二千円より、その空白の方を高いと思った。