虫を集める黄色い畑
聖都の蕪畑は、夜ごと銀跳ね虫に穴を開けられていた。
薬草を煮た高価な虫除けを撒いても、朝には葉が網のようになる。農務司祭は「信仰の薄い畑から食われる」と言い、寄進額の少ない孤児院区画だけを収穫対象から外した。
瓶子要は、その区画の端へ黄色花辛子の種を蒔いた。
「蕪を守るために、別の菜を育てる?」
司祭グルデは、土地を無駄にした罰として、失敗すれば孤児院の畑を没収すると宣言した。
要は蕪の列を囲むように、辛子を一列だけ植えた。育つのを待ったのは十日。黄色い花が開いた夜、薬も煙も使わず畑を閉めた。
翌朝、見物人が悲鳴を上げた。
黄色い花と柔らかな辛子葉が、銀跳ね虫で黒く見えるほど覆われている。ところが囲いの内側の蕪には、虫がほとんどいない。虫は消えたのではなく、より好む作物へ集まっていた。
要は白布を辛子列の下へ広げ、茎を一度揺らす。落ちた虫は一間あたり百八十七匹。蕪の列から集めた虫は一間で九匹だった。
子どもたちは一刻かけて蕪の葉を裏返したが、見つけた卵は六つだけだった。昨日まで同じ作業で籠二杯になったという。数字より先に、穴のない葉が朝日を返していた。
「たまたま花へ群れただけだ」
グルデは隣の司祭畑を指した。そちらには辛子がなく、蕪百株のうち六十八株に新しい穴が開いていた。孤児院区画は百株中七株。被害は十分の一近い。
要は虫のついた辛子を根ごと抜き、布で包んだ。畑全体へ薬を撒く必要はない。囮の一列だけを処分すれば、その夜の害虫をまとめて減らせる。
薬草代の帳簿が開かれた。司祭畑は一晩で銀貨十二枚。孤児院区画は辛子種の銅貨三枚だけ。収穫予定量は、孤児院のほうが四倍だった。
グルデは信仰の差だと言い直そうとしたが、司教が穴の数を自分で数え終えていた。
「寄進額では虫は動かぬらしい」
司教は没収状を破り、薬草購入の印を取り消した。
「要に聖都十二農園の防虫指揮を任せる。黄色花辛子は、来季から蕪種と同数を買い付けよ」
孤児院の子どもたちへ、最初の無傷な蕪百個が予約された。