赤い点のあるリリースノート

玲が公開した更新には、赤い点が一つ残っていた。

スマートフォンアプリの通知バッジが、読んでも消えない。利用者からの問い合わせが五件入り、社内チャットの障害チャンネルが動き始めた。原因は、玲が前夜に変更した既読判定だった。

《誰のコミット?》

リーダーの投稿を見た瞬間、玲は履歴から自分の名前を消したくなった。

以前にも、小さな不具合を出したことがある。そのときは修正だけを先に入れ、原因を「既存処理との競合」と曖昧に書いた。嘘ではないが、自分の変更で起きたことも書かなかった。発見されるまでの一時間、身体中が熱かった。

今回も、修正版を黙って作れば十分ほどで直せる。

玲はキーボードに手を置き、先に障害チャンネルへ書いた。

《起点は私の変更です。未読数の再計算が、既読後にも走っています。十五分で修正版を出します。影響範囲を確認中です》

送信欄の横に、玲の丸いアイコンが残った。

すぐに《了解》《問い合わせ文面はこちらで出す》と返る。誰も玲の価値を判定しなかった。ただ作業が分かれた。

修正は十八分かかった。テスト中に別の条件が見つかり、予定より遅れた。玲は《三分遅れます》とも書いた。遅れを隠すためにテストを一つ減らすことはしなかった。

配信後、赤い点は消えた。しかし問い合わせの返信と原因報告は残っている。障害チャンネルには、自分の名前が何度も並んでいた。

リーダーから《明日、テスト観点を見直す》と予定が入る。玲は反射的に《今夜中に全部直します》と返しかけたが、削除した。原因報告の締切は明日の午前で、今夜の徹夜は依頼されていない。

玲はいつものように、帰宅後も通知を監視しようとした。

けれどスマートフォンの集中モードを二十分だけ設定し、机の引き出しへ入れた。二十分で反省が終わるわけではない。次のレビューで指摘も受けるだろう。

給湯室で冷めたおにぎりを食べる。画面を見ないまま噛むと、海苔が少し湿っていた。

二十分後、玲は戻って報告書を書く。その前の二十分を、罰として差し出さないことにした。