赤字四千枚の正体

北方軍の食費が、ひと月で銅貨四千枚も予算を超えた。

軍監は厨房長を広場へ引き出した。

「材料を盗み、兵の鍋を薄めたな」

その朝、兵の椀には麦粒が十七しか入っていなかった。厨房長は予算超過を埋めるため、自分の給金で肉を買っていたのに、盗人として晒されている。軍監の私兵だけは裏門で白いパンを受け取っていた。誰も口にできなかったが、兵たちは全員知っていた。

綾杜は厨房の鍋を調べず、支出を値段と量へ分けた。もし市場価格が上がったなら、一食あたりの数字が増えるはずだ。だが二枚は動いていない。増えたのは食数だけ。二千という余分な数が地面に書かれると、兵の列からざわめきが起きた。存在しない部隊が、毎日二千人分を食べている。その異常は、薄い椀よりはっきり見えた。

厨房長は否定したが、支出総額は二万四千枚。予算は二万枚。数字だけ見れば逃げ道はない。

新任書記の綾杜は、二つの掛け算を地面へ書いた。

予定は一万食、ひと食二枚。実際の仕入れ値も、ひと食二枚。値上がりは零。

ならば二万四千枚で買われたのは、一万二千食分だった。

「高く買ったのではありません。二千食、多く出ています」

軍監は訓練で腹が減ったのだと笑った。綾杜は配給札を百枚ずつ束ねる。正規兵一万人分の束とは別に、黒い紐の札が二千枚あった。

札には『第十三予備隊』とある。

だが北方軍に第十三予備隊は存在しない。軍監が私兵へ軍粮を流すために作った名だった。

倉庫の裏門には、黒紐の札と引き換えに運び出されるパン箱が並んでいた。数は二千。厨房長が薄めたのではなく、軍監が余分に持ち出していたのだ。

将軍は軍監の剣を奪い、厨房長へ謝罪した。綾杜が出した差異表には、価格差零、数量差四千と明記されている。

その日の夕食は予定どおり一万食。支出は銅貨二万枚で、兵の椀には昨日より厚い肉が入った。

将軍は表の最下段へ任命印を押す。

「数字で兵糧泥棒を射抜く者が要る。綾杜、今日から軍会計官だ」