迷子になった獣盗り

「迷子札を書きましょう」

魔獣使いギルドの受付係メルティは、迷子の世話ばかりしていた。

主とはぐれた角兎、巣から落ちた風雛、契約印を忘れた新人。彼女は名前と特徴を札へ書き、首輪に結んでやる。戦闘向きには見えず、腰に下げているのも剣ではなく、小さな鈴だけだった。荒くれの魔獣使いたちは彼女を《迷子係》と呼び、契約術の相談すらしなかった。

獣舎番の少年ユハンは、彼女に拾われて育った。昔、自分の首にも「名前不明、好物は焼き栗」と書いた札を結んでくれたことを覚えている。

昼下がり、痩せた男が大袋を抱えて窓口へ来た。

「珍獣を保護した」と言うが、袋の中から聞こえるのは怯えた鳴き声。メルティが開封を求めると、男は笑って麻痺粉をまいた。

魔獣専門の盗賊《首輪狩り》だった。

袋から炎冠を持つ不死鳥の雛を引きずり出し、短剣をその喉へ当てる。

「創設者の契約鈴を出せ。全魔獣を従える宝だろう?」

麻痺粉で広間の者たちは倒れた。

餌桶の中へ隠れていたユハンだけが、霞む目で見ていた。

メルティは腰の鈴を一度鳴らす。

音は小さかった。

だが男の首に巻かれた盗品の首輪が、すべて一斉に外れた。遠い山、海、砂漠で奪われた魔獣たちとの強制契約が逆流し、盗賊の身体から力と記憶を剥ぎ取っていく。

彼が短剣を振るより先に、メルティは指先でその額へ触れた。

「迷うのは、ここまで」

男は幼子のような顔で膝をついた。自分の名も、盗んだ道も、悪意の向け先さえ思い出せない。ただの身元不明者になっていた。

不死鳥の雛はメルティの肩へ飛び乗り、古い鈴へ頬を寄せる。

鈴の裏に刻まれていたのは《万獣ギルド創設者・初代契約主メルティ》の文字だった。

彼女は麻痺粉を無害な小麦粉へ変え、床を掃き、雛を袋から出して保温箱へ移す。人々が起きたころには、盗賊の証拠品だけが整理されていた。

ユハンへ向け、メルティは鈴を指で隠す。

少年は昔、自分にも同じ札を結んでくれた手を思い出し、秘密を飲み込んだ。

何も覚えていない男が、不安げに窓口を見上げる。

メルティは新しい札とペンを差し出した。

「迷子札を書きましょう」