迷子の呼び出し

放送室へ届いた迷子は、高校生だった。

文化祭の午後、鳴海依緒は校内放送の受付に座っていた。財布、傘、スマートフォン。落とし物の紙が机へ積まれる中、一年生の女子が息を切らして入ってきた。

「友達とはぐれました」

「名前は?」

「私の?」

「友達の」

「言いたくないです」

「呼び出せないよ」

「でも、探してほしくて」

依緒は困った。

話を聞くと、二人は朝から一緒に回る約束だった。ところが入場してすぐ喧嘩し、相手が一人でどこかへ行ったらしい。原因を訊くと「パンフレットの折り方」と答えた。

「それで喧嘩?」

「縦に折ったんです」

「だめなの?」

「地図が見えなくなるから」

女子は泣きそうだった。

依緒にも、三日前から口をきいていない友達がいた。放送部の企画をめぐって揉め、相手は今日、校内を撮影しているはずだった。

依緒はマイクを入れた。

「迷子のお知らせです」

女子が慌てる。

「名前、まだ」

「名前は呼びません」

依緒は原稿のないまま続けた。

「パンフレットを縦に折った方を探しています。地図が見えなくても、待ち合わせ場所は一階放送室前です。怒っている方も、怒らせた方も、午後三時までに来てください」

スイッチを切ると、女子が目を丸くした。

「そんなのでわかります?」

「わかる人には」

十分後、縦に折られたパンフレットを持つ女子が来た。

二人は顔を合わせるなり、「ごめん」ではなく「何で放送したの」と同時に言った。そのあと笑い、泣き、また言い合いながら廊下へ戻っていった。

依緒は胸の奥が少し痛くなった。

三時前、放送室の扉が開く。

カメラを提げた友達が立っていた。手には、縦に折ったパンフレット。

「呼び出された気がした」

「折り方が違う」

「さっき折った」

「ずるい」

「怒ってる方と、怒らせた方、どっち?」

「両方」

友達はカメラを机へ置いた。

画面には、朝から撮った文化祭の写真が並んでいる。最後の一枚は、放送室の窓から見える依緒の横顔だった。

「勝手に撮った?」

「声かけたら、まだ喧嘩中だったから」

依緒は笑った。

二人は狭い放送室で、冷めたフランクフルトを半分にした。仲直りの言葉は最後まで言わなかった。

その代わり、閉会放送は二人で読んだ。

文化祭で最も役に立った呼び出しは、名前を一度も呼ばなかった放送だった。