運び込んだ者の名前

門馬井莉子は、入力欄へ「瀬尾谷朝陽」と打ち込んだ。

隣に立つ朝陽の笑みが消える。佐原木薫子は、彼と莉子を交互に見た。

規則は一つ。

〈参加者のいずれかをこの部屋へ運び込んだ人間を一人特定せよ。正解者を犠牲者とし、残る参加者を解放する〉

三人とも薬で眠らされ、目覚めた時には椅子にいた。運搬者の顔など知るはずがない。主催者は、互いを適当に告発させるつもりだった。

朝陽だけは落ち着きすぎていた。扉の暗証番号を見ずに知り、天井カメラの死角を避けて歩く。さらに薫子の左肩が痛むと口にした。薫子自身がまだ気づいていない注射痕の側だ。

莉子は床の白い粉を指でこすった。搬送係の靴底へつける追跡用蛍光剤。同じ粉が、朝陽の靴の溝に詰まっている。参加者用の裸足ではつかない痕跡だった。朝陽だけが搬送靴を履き替え損ねたのだ。

「あなたは参加者役の監視員。薫子をここまで担いだ」

朝陽はすぐに笑い直した。

「僕も首輪をつけられている」

「本物らしく見せるためでしょう。でも留め具の向きが逆。自分で装着した人の向きよ」

『推測で人を殺すのですか』

主催者の声が響く。

莉子は決定キーを押した。

「違う。規則が求めるのは運搬者の特定。人を殺すと決めたのは、運搬者を参加者の中へ混ぜたあなたたち」

機械が朝陽の靴、指紋、搬送台の記録を照合する。

〈瀬尾谷朝陽。搬送記録一件〉

〈佐原木薫子をB区画へ移送〉

〈正解〉

朝陽の首輪が初めて本当に赤くなった。

薫子が震える声で言う。

「どうして私を運んだ人だと?」

「あなたの肩を見ていた。心配じゃない。針を刺した位置がずれていないか確認する目だった」

二人の首輪が外れる。朝陽は主催者へ助けを求めたが、返事はない。使い捨ての監視員も、番組にとっては犠牲者一人にすぎない。

莉子は出口で振り返った。

「参加者同士しか疑わないと思ったから、あなたをここへ入れた。人間のふりをするなら、人間として数えられる覚悟くらい持つべきだったね」

朝陽の笑顔は、最後まで戻らなかった。