鉛筆を一本削る

土曜の午後四時五十分、柊木美弦は、未開封のスケッチブックを腹の上に載せて目を覚ました。

午前中、画材店で買ってきたものだった。表紙の紙はまだ硬く、値札の剥がし跡が光っている。昼食のあと、一ページ目に何か描くつもりでベッドへ持ってきた。構図を考えながら少し横になり、気づけば窓の外は夕方だった。

趣味のグループチャットには未読が十二件。〈今日の一枚〉という題で、花瓶、猫、駅のホームが投稿されている。短い時間でも手を動かすことが上達のこつ、と先週みんなで話したばかりだった。

美弦はスケッチブックを開いた。白い紙は、寝て失った五時間より広く見えた。今から一枚仕上げれば、休日を無駄にしなかった証拠になる。そう思うほど、何を描いても雑になる気がした。

机の上には鉛筆が六本あった。先が丸いもの、折れたもの、削ったまま使っていないもの。美弦は一番短い鉛筆を選び、手回しの削り器へ差した。

しゃり、しゃり、と木が薄くほどける。削りかすは小さな花びらのように透明ケースへたまった。芯が尖るまでに一分もかからない。それでも、眠りから部屋へ戻るための音としては十分だった。

一ページ目の右下に、日付だけを書く。線が少し濃すぎて、数字の最後がにじんだ。絵は描かなかった。グループチャットも開かず、削った鉛筆をスケッチブックの上へ置いた。

創作をする休日ではなく、創作の前で眠った休日になった。日付だけのページを失敗作と呼ぶ必要はない。

スケッチブックは安くなかった。買った日に一枚も描かなければ、道具を集めるだけの人になったようで恥ずかしい。美弦は値札の剥がし跡を親指でこすったが、粘りは取れなかった。使い始める時刻を、買った日のうちに合わせる必要はない。白い紙には消費期限が書かれていなかった。

未読の十二件は夜になっても十二件のままだった。美弦は、自分の一枚を加えなくても、好きなものから追い出されるわけではないと思った。

美弦は削りかすを捨てず、ケースの蓋を閉めた。今日は鉛筆が一本、描ける形になった。それで次の休日まで、白いページを残しておく。