鏡に真実を一文字

《黒羽シオンの怪談コラボに素人の書道家?》

《鏡后は配信者の偽物を作る。人数を増やすな》

《本物判定できず同士討ちする未来しか見えない》

人気怪談配信者・黒羽シオンが鏡の間へ足を踏み入れると、同じ顔が八人に増えた。声も装備も記憶も同じ。八人のシオンが一斉に、同行者の文月墨弥を指さす。

「そいつが偽物よ」

墨弥は墨壺と一本の筆しか持っていない。共同配信に誘ったシオンは、開始前に『私まで疑わしくなったら、あなたの字を信じる』と言っていた。鏡后は天井から笑い、その約束ごと嘲るように、さらに八人の墨弥を映し出した。

《複製は本人の自己認識まで読んでる》

《質問テスト無意味、秘密も全部共有》

《本物のシオンを攻撃したら即配信終了だぞ》

九人の墨弥は動かなかった。複製たちはシオンの口癖まで正確に真似し、互いを偽物と告発する。墨弥自身も、自分の記憶だけでは本物だと証明できない。けれど本物だけが、文字を書く前から鏡へ映る自分の筆先を見ていた。書家は顔ではなく、紙の裏表と筆の進む向きで世界を見る。

彼は最も大きな鏡へ近づき、墨で一度だけ「真」と書いた。

文字は鏡面ではなく、その奥へ沈む。

八人のシオンは左右反転したまま「真」を見た。本物のシオンだけが、鏡越しではない正しい字を背にして立つ。彼女は振り向きざま、天井の鏡后へ護符を投げた。すべての偽物が硝子片になり、墨弥の複製も消える。

「私を見分ける印じゃなかったのね」

「鏡が嘘をつけない印です。あなたには最初から、偽物になる理由がない」

《映像反転検証。本物だけ文字を直接見てない》

《鏡后の複製機構そのものへ“真”を定義したのか》

《シオンが迷わず攻撃できる一秒を、書道家が作った》

シオンは割れ残った小鏡へ二人を映し、配信用サムネイルをその場で撮った。

「次の怪談も来て。あなたが一文字書けば、私は百の嘘を暴くから」

迷宮庁の検証バッジが配信タイトル横に灯った。

【公式認定:鏡后複製体・誤攻撃ゼロでの初攻略】