鐘楼の風猫は音を恐れる

王宮の鐘楼には、風を呼ぶ長毛猫フィーネが住んでいた。

本来は鐘の響きを遠くへ運ぶ守護獣だったが、近年は鐘が鳴るたび暴風を起こす。鐘守を階段から落としたこともあり、「音に狂った」と誰も近づかなくなった。

新しい鐘守の娘ルチカは、父の代わりに朝鐘の綱を引くことになった。最上階へ上がると、灰青の巨猫が鐘の下で身を縮めている。

兵士たちは扉の外から弓を構えた。少しでも風が起きれば射るつもりだ。

ルチカは綱へ手をかけず、猫の左耳だけが不自然に伏せられているのを見た。耳を振るたび、かすかに金属音がする。

「鐘が嫌いなのではなく、耳の中で鳴っているのね」

父が修理した大鐘は、先月、金の縁飾りを一片なくしていた。小指の爪ほどの薄片だ。

ルチカは自分の耳を布で覆い、ゆっくり床へ座った。フィーネは牙を見せたが、彼女が鐘を鳴らさないと分かると、少しだけ顔を上げる。

「取らせて。朝鐘は、それからにする」

指を近づける代わりに、柔らかな羽根を差し出した。フィーネが匂いを嗅ぎ、前足で一度触れる。次にルチカは耳の外側からそっと撫で、痛くない場所を確かめた。

耳の奥に、曲がった金片が刺さっていた。細い毛抜きでつまむと、フィーネの爪が床へ食い込む。ルチカは手を止めず、一息で引き抜いた。

金片が石床へ落ちた瞬間、猫の周りを渦巻いていた風が消えた。

ルチカが初めて朝鐘を鳴らす。澄んだ音が王都へ広がったが、暴風は起きない。代わりにフィーネが高い喉音を響かせ、その音を風に乗せた。

兵士が弓を下ろす中、猫はルチカの膝へ額を押しつけた。鐘形の契約印が彼女の胸元に灯る。

落下事故で寝込んでいた父も塔へ運ばれ、自分が嫌われていたわけではないと知って涙を拭った。ルチカは鐘を鳴らす前に必ずフィーネへ合図し、猫が耳を伏せた日は時刻を少し遅らせる。正確さだけを誇った王宮の鐘は、それから初めて、生き物の呼吸に合わせて鳴るようになった。

長毛は朝雲のようにふくらみ、触れるたび内側の温もりが指へ伝わった。膝いっぱいに預けられた頭は、鳴り終えた鐘の余韻のように静かで重かった。