雨雲の下のタグ

出発ロビーの窓を雨が叩く中、鎌田理央は白い保冷バッグの荷物タグを見直した。

目的地は福岡なのに、印字は札幌。空港コードのアルファベットを、後輩が隣の予約からコピーしていた。バッグの中には、乗客が旅行中に使う注射薬が入っている。預け入れ自体は可能だが、一定温度を保ち、到着後すぐ受け取る手配になっていた。

搭乗締切まで十二分。タグを付けた荷物はすでに搬送ベルトへ流れている。後輩は「札幌便の積み込み前に探します」と走り出そうとした。

理央はベルトの履歴を開いた。雨雲のため出発順が入れ替わり、札幌便のコンテナは先に閉まる予定だ。人が走って探すだけでは間に合わない。

「コンテナを止めます」

管制担当は、一個の荷物で便全体を遅らせるのかと聞いた。理央は薬品輸送の注意情報と誤タグの記録を送り、コンテナ番号を指定した。積み込みを三分止め、その間に搬送映像から白いバッグを特定した。

後輩は息を切らしながら、「コードを声に出して確認したのに」と言った。

「アルファベットを読んだだけだと、行き先を考えなくなる。都市名と便名まで言おう」

理央は正しいタグへ付け替え、温度表示が規定内であることを乗客の前で確認した。今後は医薬品や精密機器のタグを印刷するとき、予約画面の目的地と便名を二人で読み上げる。似たコードを連続処理した場合は、画面を一度閉じるよう手順も変えた。

福岡便は定刻に出た。乗客は搭乗口へ向かう前、保冷バッグが自分と同じ便へ載ることを確認し、深く息を吐いた。「薬だけ別の町へ行ったら、旅行を続けられませんでした」と言われ、理央はタグ一枚が旅程そのものになる荷物もあると改めて知った。雨脚は強まっていたが、正しいコンテナの番号だけは画面ではっきり緑に変わった。

責任者は、コンテナ停止の記録を「新人教育不足」として処理しようとした。理央は、その教育を任されながら確認時間を削った勤務表を添付した。

終業後、理央は希望していたラウンジ職ではなく、手荷物品質管理の社内公募へ申し込んだ。

雨でかすむ滑走路を背に、応募確定を押した。