零点のあとがき
月足纏と私は、交換日記で成績を競っていた。
頁の上にその日の小テストの点数を書き、負けたほうが下へ反省文を書く。
数学、私九十二、纏九十六。
英語、私八十八、纏八十五。
古文、私七十四、纏七十五。
反省文と言っても、内容はほとんど悪口だった。
――ケアレスミスではなく実力不足です。
――三点差で威張る人間は大成しません。
――その漢字、送り仮名が違います。
私たちは同じ大学を目指していた。模試の順位が貼り出されるたび、先に名前を見つけたほうが赤ペンで丸をつけた。
冬の朝、数学の答案が返された。
私の点数は、零点だった。
名前を書き忘れたのではない。途中式もほとんど白い。前夜、父と進路のことで喧嘩し、机に向かったまま一問も解けなかった。
答案を折り、日記には何も書かなかった。
昼休み、纏が私の机へ来た。
「今日の点」
「休み」
「交換日記に休日はない」
「書きたくない」
纏は日記を持っていった。
放課後、返ってきた頁には、大きな丸が一つ描かれていた。
――本日の点数、〇点。
零のつもりらしい。
その下。
――円には始まりも終わりもないので、どこからでも解き直せる。
――なお、私の点数は六十一点。勝ったが、威張れる数字ではない。
私は笑った。笑ったあと、少し泣いた。
答案を開き、最初の問題から解き直した。纏は隣で、自分が間違えた問題を解いていた。教室にはストーブの音と、鉛筆の音しかなかった。
一時間後、零点の答案は赤い式で埋まった。
私は日記へ続きを書いた。
――再試算、八十三点。
――勝手な採点は無効。
――では、明日の昼休みに採点してください。
――昼休みは英単語。
――逃げるな。
――そちらこそ六十一点。
反省文の欄を越え、頁の端まで言い合いが続いた。
春、合格発表の掲示板に二人の番号があった。
その日の交換日記には点数を書かなかった。代わりに、あの大きな〇を二人で塗りつぶし、中心に小さく大学名を書いた。
纏は「これで百点」と言った。
私は赤ペンで横へ書いた。
――採点が甘い。
零点の頁は、日記の中でいちばん書き込みが多い。今でも開けば、負けたくなかった相手が、負けそうな私の隣へ座ってくれた冬の匂いがする。