霜を削ったあとの棚

上月亘の冷蔵庫は、扉が閉まらないほど霜を抱えていた。そこへ大きなスーツケースを引いた千種雪人が来た。

「三日だけ泊めてくれ」

「その前に、これを何とかしろ」

高校のアイスホッケー部で、雪人は主将、亘はゴールを守った。全国予選の一週間前、雪人は家の借金を返すため北の工場へ行き、退部届だけを残した。亘はその試合で十点取られた。雪人から届いた謝罪の手紙は、読まずに返した。

今度は工場が閉じ、雪人が帰ってきた。親の家はもうない。工場から送った金で借金は消えたが、帰るたび泊めてくれた母も昨年亡くなった。亘は葬儀の知らせにも返事をしなかった。返せなかった、と言う機会も逃した。

二人は冷蔵庫の電源を抜き、床へ古いタオルを敷いた。亘が木べらで霜を削り、雪人が溶けた水を吸う。氷の塊が落ちるたび、狭い台所に硬い音がした。

「刃物使えば早い」

「配管まで刺す。お前は昔から近道が雑だ」

「試合には間に合ったかもな」

雪人の手が止まった。亘は次の霜へ木べらを差し込んだ。言い過ぎたと思ったが、取り消さなかった。雪人も工場へ行った理由を言い直さなかった。

冷凍庫の奥から、六年前の保冷剤が出てきた。チーム名と背番号が油性ペンで書かれている。雪人の番号だけ、掠れていた。亘は洗って乾かし、捨てずに籠へ戻した。

作業が終わるころには、冷蔵庫の中が妙に広く見えた。亘は賞味期限の切れた物を捨て、上段を空にした。雪人がコンビニ袋からカップ麺を出して置こうとすると、亘は下段を指した。

「そこは冷えすぎる。お前のは上」

三日だけ、と雪人はもう一度言わなかった。亘も期限を聞かなかった。夕食に買ってきたアイスを二つ冷凍庫へ入れる。保冷剤の横には、雪人のスケート靴を入れていた古い布袋が畳まれていた。

寝る前、雪人はスーツケースを玄関から空き部屋へ移した。亘は冷蔵庫の上段へ白いテープを貼り、何も書かずにペンだけ置いた。翌朝、そこには「冬」と一文字だけ増えていた。